匿名さん 2024-01-05 19:35:07 |
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(立ち尽くし突然書物を落とした相手の姿に、どうかしたのだろうかと少しばかり首を傾げるが、江戸時代、と聞いてすぐさま思考が切り替わる。
江戸時代から、いや、もしかしたらそれ以前からこの社にいるのであろう彼は、やはりこの神社の主であり、人ならざる者。そう改めて考えても、不思議と恐怖はなく、着物に施された細かな刺繍を手でなぞりながら、一体彼は幾つなのだろうか、なんて不躾な疑問を抱く。まぁ、そんなことを考えられる程度には、いつもの様に冷静な自分に落ち着いたようだ。
そして、彼から名を聞かれて初めて、自分がまだ名乗っていない事に気が付き、一瞬目を伏せてから、再度目の前の彼へと向き直り名を名乗る。)
……日向、静蘭。“日”に“向”かって“静”かに咲く“蘭”の花、と書きます。私には不釣り合いな名だし、好きに呼んで頂戴。
(可憐で、華やかで、慎ましい、そんな響きを含んだこの名は正直あまり好きではなかった。静けさを感じられる雰囲気は合っているかもしれないけれど、自分にあるのは涼し気な静寂ではなく、陰に潜む湿気を帯びた薄暗いものだ。名前負けしているとはよく言われたものだし、それはそうだと自分でも感じている。
「歳は25です。」とついでに年齢も付け足しておくと、ゆっくりと膝を折って正座の態勢で腰を下ろした。)
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