匿名さん 2024-01-05 19:35:07 |
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(彼女を待っている間、腰を下ろして書を読んでいたものの内容は全く入って来なかった。冷静に考えてみれば何故人間の女子なんて受け入れてしまったのか。それも出逢ってすぐの素性も分からぬ人間を。そんなことを考えていると足音がし、彼女が戻ってきたことが分かった。
その姿を双眸に捉えた時、イナリの身体は金縛りに遭ったように動けなくなった。イナリにはよく分からない現代的な衣装を着用しているときには何とも思わなかった黒髪が、表情が乏しいものの大人びた顔付きが、着物と良く似合う。美しい。直感的にそう思った。イナリは人間をそのように思ったことなどなかった。だから書を落とす音で我に返るまで、その場に立ち尽くしていた)
あぁ……江戸の時代に人間が我に献上してきたのだ。女物の小袖なぞ我は着れぬ。捨てるのさえ億劫だった故に放っておいただけじゃ。
……それより女子よ。お主の名はなんと言う?
(書を拾い懐にしまいながら言う。とりあえず努めて冷静に振る舞おうと目を合わせずに。暫くは自分の元に置いておくのだから彼女の素性を知っておかなければ。そう自分に言い聞かせながら、少しだけ興味が出てきた彼女に名前を訊ねる)
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