匿名さん 2024-01-05 19:35:07 |
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( 着物の汚れに関しては気にするなと言う彼に、申し訳なさは残りつつも他に食い下がることはせずに小さく頷きを返して。続く言葉には、夕食の準備をする手を止めることはなく視線もそのままに、考えているような間を挟んで口だけを動かした。)
──キツく巻かれると息苦しそうね。
でもね、藤の花の美しさを知ってしまったら、私、逃げられなくても平気だと思うの。
…それに植物は、私が傍に居続けても「気持ち悪い」なんて何も言わないから、きっと心地が良いわ。
(藤の花言葉に習った訳では無いが、“決して離れたくない”そう思ったことなら過去に1度だけあった。スマホのホーム画面に映っていたあの海辺を何度も一緒に歩いた思い出がちらりと脳裏に蘇る。複数人の後ろ姿は同じサークルの人達。そこに混ざっていた1人に告白されて、1年ほど付き合った。学生時代から人付き合いが苦手で浮いていた私にそんな縁なんかあるわけないと思っていたし驚いたけど、優しい笑顔を見せてくれる彼に惹かれて行って、私もそれなりに彼が喜んでくれるように努力した。
けれど、付き合って1年が経った時、私と付き合ったのは他のサークル仲間と賭けをして負けた『罰ゲーム』だったと聞かされ、そんな事に1ミリも気付かずに浮かれていた私に、彼は心底嫌悪するような顔でその言葉を吐き捨てて去っていった。
彼の優しさも私の滑稽な姿を引き出すためで、それを裏で笑われて馬鹿にされていたのかと思うと惨めで悔しくて、執着するのは格好悪い事だと学んだ。それと同時に、やはり、自分を本気で好いてくれる人など居ないのだと思った。だけれど、その分羨ましいと言う気持ちも大きくなった。逃げなくても良くて、諦めなくて良くて、自分の中にある愛を受け入れて貰えたらどんなに素敵な事だろうか。
そんなことを考えていると、包丁で野菜を刻みながら呟くようにして質問を投げかけた。)
……ねぇ、イナリ様。貴方は私に、ここに居て欲しいと思う?
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