匿名さん 2024-01-05 19:35:07 |
通報 |
心得た。
…逆上せたりするでないぞ
(去り際に彼女からのお願いを聞くと、後ろを振り返りながら頷く。同時に少しばかりの嫌味を加えて。逃げるようにその場を後にすると本殿へ向かう。帯を解き、するすると着物を脱ぐと木箱の中から別の着物を取り出す。と言っても黒を基調とした着物で、今まで着ていたのと大した違いは無い。唯一異なっているのは柄が雪輪から藤に変わった位だ。イナリは見た目に気を遣うが、着物のバリエーションは、さして重要視していなかった。されどとにかく黒い着物を好む。一度着物を献上してきた人間がいたが、彼は赤色の派手な柄を持ってきた。イナリは赤が嫌いだ。あんまり気分が悪かったので「次からは黒一色にせよ」と言い放った。
先程来ていた着物は木箱に戻し、社務所へと向かう。鍋に水を入れると指先に火を灯らせ、火を移す。続いて釜に米を入れ、何回か水洗いし、釜を竈に置くとそこにも火をつける。薪を放り込み火の加減を調節する。ぼおっと火を見つめながら、最近は変化ばかりだと考える。彼女の来訪、言われるがままに神隠し、二人での買い物。どれも以前の生活からは想像もできなかった。古く錆び付き、もう動くことは無いと思っていた環境が新しくなっていく。これがイナリの運命なのだろうか。だとしたらイナリ自身も変わることがあるのだろうか──そんなことを考えていた時だった。とっくに米が炊けていたことに気付き、慌てて火を消す。少しばかり米をお焦げができた白米を覗きながら大きくため息を一つ零す)
トピック検索 |