乙種七類型調査隔離　──番、〆

じゃあヒントを教えてやる。こっちを見ろ、ってちょっかいには覚えがあるだろ。気に入った奴からは敵意でも何でも反応を貰いたい性質でね。んで、その種明かしが通じなきゃ身体から落とそうと思ってた所だったわけだ。……どうやらお前は罠に掛かったわけじゃないみたいだがな。惹かれた理由は教えてもらえんの？( 頬を掴む掌に片手を添えると擦り寄るようにして笑みを浮かべ / やや婉曲的な表現で気を引いていたことを伝えれば自身でも狡いやり方だと笑みが漏れ / 滔々と並べ立てた言葉を一区切りしては微笑混じりに付け加え )はは、よく出来ました。( 心底からの緩やかな喜色を押し出した表情を浮かべ / 頬を撫でていた手を相手の頭に乗せては掻き回すようにして髪を乱し )

へぇ、そうか。俺の記憶違いじゃねぇなら思ってたより前からそれなりに気に入られてたわけだ。…別に良いぜ、先に対価を寄越すンならな。等価交換だ。( 随分と愛らしい仕草に目元を緩ませ / 語られる言葉に記憶を辿ればこれまでの相手の言動に得心が行ったのか笑みを零し / 遠回しに同じ事を先に明かすよう促しては口角を上げて相手を見据え )……やれやれ、栄華を極めた俺の商売もこの辺が潮時か。( 乱される髪の隙間から相手の表情を目に留めれば胸中に湧き上がる妙な生温い感触に後に退けない事を自覚して小さな溜息を漏らし / 髪を撫で回す手はそのままに脈絡無く唐突な呟きを落とし )

まあな。それにこれも言ってたはずだ、先行投資をしてんだってな。……等価交換ね。鶏が先か卵が先か、って話になりかねんが、お前の反応が面白かったんだよ。んで観察してたらまんまとハマっちまってたわけだ。これ以上は対価次第だぜ。( 添えていた片手を解くと眼下で寝ている筈の相手の心臓の辺りに人差し指を下ろし / 淡々とした言葉とは裏腹に瞳は漸く掴んだ獲物を柔和に見つめており )…？商売に何の関係があるんだ。( 此方へと向けられる視線に何だ、とでも言うように目を細め / 相手から零される言葉の意味がよく理解出来なかったのかゆっくりと髪を撫でる手は止めずとも首を傾げ )

…随分分かりにくい口説き文句だな。俺はてっきりそのうち脱獄の手伝いでもさせられるンだと思ってたぜ。…前にもそんなような事言ってたか。そこまで物珍しい反応はしてねぇだろ。…それ以上なんかあんのかよ。( その言葉を向けられた当時は疎か今ですら言葉の真意等察せようはずも無く片眉上げ / 何処か呆れたような声色で返し / 胸元に下りてくる手を振り払う事はせず視線を絡め )…俺みてぇな商売をしてる人間の鉄則は弱味を作らねぇ事なんだ。もしくは誰の目にも触れないとこにしまっておくか。だから手放したくねぇ物は作らない。それが引き合いに出されると損を被るからな。でもお前をどっかに隠しておく事はできねぇし、こんなとこじゃお前が俺にとってどういう存在なのかもそのうち知る奴が出てくる。お前を取り引きのネタにされちゃ俺は逆らえない。相手がどんなに小物でもな。そういうわけだから、引き際は潔く引いとくんだよ。( 髪を撫でる手の心地良さに自然と全身の力が抜けると相手へ向けていた視線を逸らして瞼を下ろし / 体の弛緩と共に口元も緩んだのか脳内で完結していた思考を普段よりも幾分か緩慢な口調で言葉に乗せ )

そりゃこれは口説き文句じゃねえからな。ただの伏線だよ、気に入られたくて足掻いてたヤツが張り巡らせてた訳。まあこれで俺はかなり計画的な腹黒だってことを分かってもらえたか？……ふ、こっからは有料だぜ。( つらつらと並べ立てながら自身の画策に自分で苦笑を漏らして / 肩を竦めて呆れた声を遣り過し / 交差した視線に目を眇めると相手からの答えを引き出そうと言葉を連ね )…まず俺が取引のネタにされるほどひ弱に見えてんの？それに、お前の商売はどっかの元締めの為にあるんじゃなかったのか。( 自身で口にしておきながら他者の存在に意識が向くことに不満を覚えたのか、声には刺々しさが混じり / 手の動きを止めることはなくとも若干の乱雑さが目立って )

計画的で健気な腹黒だな。…有料ね。仕方ねぇな。つっても別に面白いモンじゃねぇよ。お前を初めて此処で見かけた時から興味を惹かれて、近付いてみたらお前があまりにも俺の思い通りにならねぇからムキになったんだ。で、そうムキになってると余計な事を考えなくて済む。語弊があるのは承知で言うが、お前の近くに居ンのが一番気が楽だった。…あとは単純にお前は俺が今まで見てきた人間の中で一番良い男だったってだけ。( 記憶を辿るように視線を虚空へ遣り / 相手にとっては気分の良い理由では無いであろう事は承知の上で明け透けに伝え )見えてねぇよ。分かってても駄目なんだ。…よく覚えてンな。それはもう良い、そっちも潮時だ。( 大方予想通りの言葉に薄く目を開くと視界に相手を収めたまま答え / 相手の手つきからその感情が伝わってくるようで小さく笑みを零し髪を撫でる手に指を搦め )

馬鹿だなって笑ってもいいんだぜ。…なるほどな。精神安定剤代わりだったってわけね。十分甘い餌だ、お前程のヤツにそう言って貰えんだから。まあ俺が良い男なのは自明の理だが。……今のところ、俺はまだお前の思い通りになってねえのか？( 相手の言葉に暫く耳を傾けては満足気な面持ちで軽く頷き / 冗句じみた言葉を機嫌良さそうに付け加えて / ふと今はどうなのか気になったのか首を傾げ )へえ、情が深いってのはそこにも関係すんのかね。…そりゃ興味津々で見つめてたんだから覚えるだろ。なんだ、解決済みなのか。( 予想外の言葉とともに開かれた瞳がかち合えば瞬きを落とし / 触れ合った指先を絡め取ると指先を組み合わせるようにして深く繋ぎ変え )

笑い種にするには甘すぎるな、お前の言葉は。……なってるように見えるのか？この有様で。( 過大評価にも程があるその言葉に眉を上げて相手を見遣るも付け足された冗句に小さく笑い / 苦笑を浮かべて問いを返し )分かっただろ。馬鹿な人間の脅し一つで狼狽えるくらいにはお前は俺の弱味なんだ。…それとも商売もろくにできねぇ俺は価値が下がっちまうか？…これから解決すんだよ。お前に居て貰わなきゃ困る。( 相手の言葉に苦笑で返せば潜めた声色で問い / 相手の手を緩く握りながら口元に笑みを浮かべて視線を遣り )

お前の味覚が心配だ。その内甘さの許容量超えて倒れんじゃねえの。……なってやろうって言ってんだよ。限度はあるが。( この程度で糖分過多だと称する相手の言動に肩を竦め / 向けられる視線と問いに口角を上げると自身を指差し、とんとんと己の肩口を叩いて )生憎お前の商売の世話にゃなってねえんだ、価値下がる以前に評価の対象外だな。…俺に？一肌脱ぐのは構わねえけど、詳細なんて全く知らねえぞ。( 手持ち無沙汰に掌へ柔く力を込めながら怪訝そうに眉を顰め / 脳内で何をすれば良いのやらと見当もつかない考えを巡らせながら視線に疑問を滲ませて )

言っただろ、俺は何の裏も無く口説かれた経験がそこまでねぇんだ。多少は手加減してくれ。…真的厲害、( 思わず苦笑を漏らし / 告げられる言葉に瞬き一つ落とせば僅かに眉を下げて笑み繋いだままの手を擡げると相手の指先へ唇を付けながら呟き )怒んなよ。お前は随分俺の商才を評価してくれてるみてぇだからそこにも価値を見出してくれてンのかと思っただけだ。…別に何かして欲しいわけじゃない。お前の時間を俺に使ってくれりゃ十分だ。( 険のある言葉と表情に笑み零し / 口元に笑みを浮かべて答え )

……へえ。好きだよ、紹( 手加減、と言う単語に僅かに首を傾げれば悪戯心が芽生えたのか、相手の瞳を真っ直ぐに見据えながら静かな調子で言葉を紡ぎ )…俺には異国の言葉は分かんねえよ。( 相手の行動から察するに拒絶の言葉ではないのだろうが余りにも隔たりのある発音に不満げに声を零し )…まぁ価値はあるだろうが、惚れた腫れたへの評価には含まれないだろってだけ。……ますます以てよく分かんねえ。それが解決に繋がるのか。( いよいよ謎めいてきた相手の事情に不思議そうな表情を浮かべ )

…、( 不意に告げられた言葉に束の間瞠目して相手を見遣り / いよいよ湧き上がる羞恥から目を逸らせなくなると相手の視線から逃れるように寝返りを打ち布団へ顔を埋め )…最高に良い男だって言ったんだ。( 空いている手を伸ばし相手の目元から頬、顎へと指の背を這わせながら答え )…俺の取り柄には惚れてねぇってか。良い趣味してるな。…最初っから話してやるから先にお前が追加料金分を吐けよ。( 戯れに不満げな言葉を返すものの悪い気はしていないのか目元は柔和に綻び / 要点を端的に伝えるのは得意ではなく全て纏めて相手に話してしまおうとは思うものの先程有料と言われてしまった件についての疑問は残ったままで相手を見据えて要求し )

何で顔見せねえの。( 忍び笑いを漏らしながら布団をそっと剥がし / 照明の光で顔に影がかかる形で覗き込み )そりゃな。見る目もあるだろ。( 真意はどうあれ付け足された解説に簡単に機嫌は直り、指先の感触に束の間目を閉じて )やり手だとは思ってんだぜ、誤解するなよ。……そうだな、そんじゃサービスだ。三個ほど気に入ってるトコを開示してやろう。感情が分かりやすい、結構我慢が利かねえ、それに意地張って葛藤しながら意外と絆されやすい。可愛いだろ、お前のことだよ。( 疑問に踏み入る余り繋がりを解いていた相手の掌を再度掬い取ると指先に軽く口付け / 此方に視線が見据えられているのを良いことに眦を緩ませると、愛しいものを見ているような甘さを瞳に滲ませて )

…大体分かンだろ、( 剥がされるまま布団を手放してしまうも一向に視線を合わせようとはしないまま低く呟き )…それに関しちゃ奇特だと思うけどな。( 目を閉じる相手の表情に見入り / 片肘をついて僅かに体を起こすと相手の後頭部へ手を遣り引き寄せ一度唇を食んでから笑みを浮かべて答え )そりゃどうも。お前の為の薬も鋭意製作中なんだ、期待しとけよ。……大概にしろ、( 相手の仕草を目を細めて見詰め / 告げられる言葉はどれも此方に都合が良い物とは言えないが同時に向けられる視線に二の句が継げなくなってしまい不服そうに威勢に欠いた文句を告げ )

恥ずかしいって？( 尚も顔を背けようとする相手の頬に手を添え、此方へ強引に視線を合わせようとし )…っ、ン、…そうか？人気者だろ、この監獄じゃ引く手数多の商人だ。( 引き寄せられれば僅かに瞠目するも特に抵抗もしないまま口付けを受け入れ、鼻先の擦れ合う距離で掠れた睦言を落とし )有り難いことだが、理性無くなんの好きじゃねえのも事実なんだよな。何せお前の反応が見られなくなる。……はは。さあ、お前の番だぞ。( 相手の言動に半ば独り言に近い嗜好を口にして / 不満げではあるものの内に文句を秘めたらしい相手の様子に僅かに笑みを漏らし )

…お前何でそんな性格悪ィわけ？( 遠慮も何も無く此方の心境を口にしてくるその言葉にも煽られ頬の熱は微かながら未だに引かず / 諦めて視線を合わせれば睨み付けながら恨み言を吐き )あァ、俺が役に立つからな。お前みてぇな奴は居ない。( 相手の声色に目を細めると言葉を返しながら鼻先を擦り寄せた後再度シーツの上へ背を預け )そん時くらい我慢しろよ、いつでも見れンだから。……俺が今まで様子を探ってた人間は俺のボスだ。あんま良い仕事はしてねぇ組織のそこそこ偉い奴。俺は彼奴に拾われて、餓鬼の頃からずっと彼奴の下で働いてた。彼奴にとっては俺はただの持ち駒の一つだったけど、鬼は情が深ェモンだから忠誠心も強い。役に立てるなら何でもやった。麻薬を作って売り捌くし、使えなくなった人間は臓器を取り出して荒稼ぎしてたんだ。けど俺の代わりは他にも幾らでも居る。そういうわけで俺は取引材料にされて他の組に売り渡されたわけ。ンで当然俺が居た組織の資金調達源を聞かれるだろ。俺は痛みには耐えられるけど自白剤には耐えられねぇから、余計な事吐く前に逃げて此処に来たんだ。どうせ外に居ても連れ戻されるまで時間の問題だったし、かと言って死ぬのも御免だったからな。そんで此処で過ごしてるうちに正気に戻ったらあんな必死に言う事聞いてやるような相手じゃなかったって気づいたわけ。けど俺は今の今までボスの様子が気になって仕方なかった。此処まで来たら鬼の習性も呪いみてぇなモンだけどな。生きてるか確かめねぇと気が済まなくて、いっそ死んでてくれと思ってたんだ。…で、そういうのをお前の近くに居たら忘れられる。だからお前が居ねぇと困るんだ。( 記憶を掘り返し視線を宙に向けては長々と言葉を連ね / 一呼吸置いた後相手の方へ視線を遣り )

俺は全部の感情を俺に向けてて欲しいんだよ。さっき言ったばっかだろ、無関心程悍ましいもんはない。( 僅かに熱を帯びる頬に手を添えて笑うでもなく静かに見詰め )果たしてそうかね。お前もそこそこ長く居るなら粉掛けられたことくらいあんじゃねえの。( 再びシーツの波に身体を預けた相手の様子を見るともなしに眺めながら過去に思いを馳せ )お前のそれは薬へのプライドから来てんのか、効かねえのがよほど悔しかったんだな。……俺が居ないとボスに首ったけになるなら、そりゃ四六時中引っ付いてねえと。癪に障るな全く、( 口を挟むこともなくただ耳を傾けて相手の話を聞き / 様々な感情が去来する中一番に口を衝いたのは独占欲を全面に押し出したもので / 両手を伸ばすと相手の頬を挟み、特に慰めの言葉を投げ掛けることもなく極めて身勝手で傲慢な嫉妬の表情を浮かべ )

…だからって負の感情まで引き受けようとはしねぇんだよ、普通はな。( 想像よりも静寂が漂えば此方の気分も徐々に落ち着いていき表情を和らげつつ相も変わらず苦言を呈し )…あったにしても一時的なモンだ。その気もねぇ奴の気を引く事に時間を割くようなのは早々居ねぇだろ。( 相手への揶揄も込め口角上げて )…どっちかって言うと焦ったんだ。俺がこんなトコでも悠々自適に生活してンのはいざとなったら何とかできる術があるからなんでね。…ッは、本当に良い男だなお前は。( 頬を挟む手に目を細め / 紛れも無い本心に聞こえるその言葉が心地良く思わず笑みを零すと頬にある手へ自らの手を重ね )

慣れろ、こういう男だ。( 嗜める言葉にも特に自身の意識改革をするつもりはないのか簡単に言い捨てて頬の熱から手を離し )俺はその気があったからわざわざ策を弄してまで迫ったんだよ。俺の演劇は楽しんで貰えたか？( 揶揄の響きを含んだ声に肩を竦め )そりゃズルを封じて悪いね。…あ？今の言葉の何処が良い男なんだ。自分で言っておいてなんだが、優しく寄り添ってやったわけでもねえだろ。( 重ねられる掌と零された言葉に訝しげに片眉を上げ / 相手の頬を揉むように両手に力を込め )

…分かった分かった、俺が譲歩すりゃ良いんだろ。( 不満を露わに相手を見据えていたが程無く溜息混じりに告げ )あァ、お陰様で此処暫くは退屈する暇も無かった。( 小さく笑み零し )処世術って言え。…別に寄り添って欲しくて喋ったんじゃねぇよ。お前に言う必要があると思ったから言ったんだ。同情されるようなモンだとも思ってねぇしな。結果良いモンが手に入ったんだから、寧ろ俺は幸運な方だ。( 抵抗はしないながら微かに眉を寄せ / 何処となく満足そうな声色で零し )