龍神 2023-08-20 23:05:18 |
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(正直に話すのなら少しだけ衝撃で心臓が震えた思いになる。指を折り数えられる程の少なさだけれど、己にはいつだって角砂糖をたっぷり落とした紅茶のように甘く優しいお父さまが、御本で読む悪魔のようにいっそ美しいほど恐ろしく辺り一面を圧倒する姿があったのに。今こうして目の前にいるお父さまはその時の比ではなく、もっとずっと荒れている。それなのに、今まで見たことの無いお父さまに嬉しさとも幸福感とも言い表せぬ満ちる感情で胸が埋まり、凍り付いたこの場に限りなく不似合いにとろんと双眸を蕩けさせた微笑みを蓄えて。──お兄さまと呼ばなくていい、お父さまはそう仰る。僕は朝霧だとお兄さまはそう名乗る。それなら私はどう動くのが正解だろう。うん、と選択肢が決まればテーブルの下で人差し指の背をカリッと引っ掛けて本当に些細な小さなかすり傷を拵えて、関節の当たりがほんのりと赤くなり目を凝らせばじんわりと少しだけ血が滲む指をお父さまへ見せて「お父さま、お父さま。あたし指を切っちゃったみたい。ばんそこが欲しいの」目の前で起きた信じられない事に敢えて重ねた嘘の傷、それを差し出しながら耳を疑った。決して知るはずのない注文を行うお兄さまに駄目だと言う忠告を塗り替えそうになる好奇心が顔を出して。どうして?なんで?とその好奇心に導かれて顔が上がり、見た目年齢に良く似合う親しみをくれる人好きのする穏やかな笑みを瞳に映して)
あたし、聞いたことも言ったこともないわ。お父さまのお知り合いのことも、食べたいものも。
──っ!?ああ大変だ血が出ているじゃないか…!!
(最愛の彼女が差し出した指を視界に入れた瞬間怒気は霧散。周囲の様子が見えていなかったことは思考の彼方に追いやってしまったようで慌てて包み込むように人差し指に片手を添えると、傍らの革鞄からゴソゴソと絆創膏を探り出して。ガーゼと消毒液を当たり前のように取り出し、人の子に対する備えを万全にしていたことを過去の己に向け感謝しながら赤の滲むそこにポン、ポンとアルコールを染み込ませた綿を添え、慣れた手付きで手当を終えて。彼女の思惑はいざ知らず、ひとまず傷口に絆創膏を巻き終えたとすれば余計な横槍を入れてきた旧来の悪友には目もくれず、心配げに眉を下げては「痛かっただろう、もしも痛みが続くようなら言うんだぞ、家の丸薬を取ってくるからな……!」などと捲し立てるように早口で告げ)
(ぱちくりと目を瞬かせると慌てふためく龍神の姿に尋常ではない興味を唆られたようで、心配の対象となっている彼女と見比べながらふむ、と顎に手を当てる。見た所彼女の自傷は故意のもの、それすらも気付けずひたすらに愚直を晒す龍神の姿は大変滑稽な見世物だ。どうやらただの生贄というわけではないらしい──そんな彼女の好奇心は少しこちらにも向けられているようで、にっこりと笑っては「僕は彼の友人。酷いんだよ夜刀ってば、もう100年以上も音信不通だったんだからね。…君みたいな可愛い子を囲っているなんて知らなかったし。」穏やかに伸びた手は今度は頭上へ、美しい髪を慈しむような手付きで撫でると、やがて注文の数々を運んできた店員に軽く会釈をし自身の分であるコーヒーとキッシュを引き寄せて。同時に龍神と贄の前にクリームソーダとサンドイッチ、パンケーキをぐっと押しやり、丸い瞳をぐっと細めて)
……何で注文が分かったか気になる?僕の要求を呑んでくれるなら、教えてあげてもいいよ。
お父さま、ありがとう。お父さまのお陰でれめの痛い痛いは消えちゃった
(寒く冷たく感じる程に恐ろしく怖かった空気が、あっという間にようく知る優しくて甘やかしてくれる甲斐甲斐しさに変わる。元より怪我をしたなんて嘘っぱち、少しも痛くない指に大袈裟な手厚い手当が施されると嬉しそうにふんわりと笑顔を咲かせて差し出していた手を引き戻し。誰がどうみても過保護過ぎるだろう心配に大丈夫だと答え、好奇心に従う耳は聞きこぼさずに”お友達”の声を拾っていて。お父さまのお友だち、詳細は知らないけれどお酒を嗜んだお父さまがその存在について話したのを聞いたのはいつの夜だっただろうと記憶を巡らせて。見た目の柔らかさと同様に優しい手で髪に触れるといつも触れる手との違いに口を結び。「お友だちのお兄さま。ふふ、変なことを言うみたい。んふふ!……お兄さまはお父さまと同じでれめとは違う立場の方だわ。そんなお兄さまがれめに求めるような妙妙たること、できる気がしないもの」腹を開いた本音は気になるの一択。滅茶苦茶気になって仕方がない。メニューの相談の時には間違いなく居なかったのに、言い当てるのは勘の良さや推理生の高さとは違うはず。でもそれに乗ってしまえば大好きなお父さまが良い気をしないのもわかる事。だからこそ惚けて知らんぷりをして目の前に置かれた品に両目を下ろし、絆創膏の巻かれた手を重ね合わせて食前の挨拶を。)
にこ並んだらお父さまといっしょ、とってもきれい。……いただきます
おいちょっと待て許さねえからなこの××野郎、テメエの××を××してやっ──、そうか、お前が痛くなくなったならそれが一番だ!
(聞くも憚られるような暴言は彼女の一言によって遮られ、途端に緩む頬は単純と言っても良い塩梅で。手当の隙に運ばれてきた料理を目にすればまたふん、と息を吐きつつも先の約束は忘れていなかったようで、炭酸に溶けるバニラアイスの上に乗ったさくらんぼを摘み上げ赤色のクリームソーダへと挿し込んで。しゅわしゅわ、と音が聞こえてきそうな赤と白はどうやらさくら味とスッキリとしたサイダー味。ついでに小さな銀のスプーンでアイスを掬い上げ、おまけとばかりに赤の上へ。やや盛り込みすぎたか溢れるギリギリまで豪華となったそれにようやく満足したらしく、お次は料理の皿を彼女の方に寄せて。彼女が二つの料理で満腹になったならば、その残りを頂戴するつもりで。忙しく動く中でも聡明な彼女があちらからの申し出を断ったのを聞き届ければさすが俺の子!と大きく頷く。彼女の言動により感情の昂ぶりは一通り落ち着いて、額から生えかけていた角も伸びた犬歯も普段の元通り。加えて自身を慕う言葉も付け加えられれば最早言うことはなく、白のクリームソーダの前で手を合わせてはストローに手を掛けて)
ああ、いただくか。
別に難しいことをさせるつもりはなかったんだけどなぁ。夜刀も落ち着きなよ、……って、ふふ。
(下品な怒号にも動じる素振りはなく興味は完全に人の子に移った様子。目を爛々と輝かせながらもお澄ましして要求を躱す言動は何処かの琴線に触れたらしく、コーヒーのティーカップを口に運びながら相手方の様子を見守って。彼女の知的好奇心を擽れば面白いものが見られるのではないか、と踏んだのかかちゃりとソーサーにカップを置くと、視線を人の子に定めながら食事中であろう彼女へと笑顔を向け)
まあいいや。ここで諍いを起こしても仕方ないよね。さっきのこと以外に気になるのがあれば答えてあげるよ、その代わり君も答えて。お嬢、君は夜刀にとってどんな存在なの?
お父さま、だぁいすき。……お父さま、お父さま。れめは、シロップをかける大事な役はお父さまにして欲しいの。
(グラスの中の色がついたソーダ水の泡がぱちぱちと踊っている。増えたさくらんぼとアイスクリームを喜んで、シュワシュワぱちんと外に飛び出してしまいそうに思えた。約束を守る以上に甘やかしてくれる無償の愛に感謝よりも気持ちを伝えて。何とか押さえ込んだ好奇心を尚もわかりやすく刺激されると堪らない。考えると言うには早く、その場の思いつきと言うには少しだけ遅れた動作で、並ぶお皿から美味しそうなパンケーキの乗った物を選択してお父様の元へと移動させて。唇をきゅっと結んでにっこりと笑って見せながら、甘えた声で強請るのは本当なら譲らずに己がやりたかった行為らしい。お父さまの返事や反応を聞いてからだと後ろ髪を引かれる自覚があるようで、何かを見聞きするより先に今度はお兄さまへ顔を向けて。人好きをする甘く柔らかで涼しいそんな笑顔を数秒ほど見つめてから、懐っこい顔で微笑んで無邪気に指先でさくらんぼのヘタをつまんで持ち上げ「お父さま、たった一個しかないさくらんぼをれめにくれるの。……だから、れめはお父さまの世界でいちばん可愛い子。」まるで愛されることに少しの疑問も抱いていないような、疑いの隙を作らないほどたっぷりの寵愛で育てられたのがわかりやすく言い切ると、シロップに漬けられた甘くて仕方がないさくらんぼを口に迎えて。瑞々しいさくらんぼよりもずっと好物の作られた甘さのさくらんぼを楽しんで、種は口を隠して紙ナプキンの中に閉じ込め。話を最初に戻すように硝子で出来たシロップピッチャーを瞳に映し「でも、あたしの一番楽しみをあげたくなっちゃうくらい、れめの世界一もお父さまなの。」仔犬が尻尾を振りながら愛を伝えるように甘い声で己視点の声を添え。最後には諦められなかった好奇心を埋めようと再度お兄さまへ顔を向けて、フルーツサンドが乗った皿をそっと差し出し。まだ食べていないその皿から彼へ渡すように好きのおすそ分けを)
お友だちのお兄さま、苦いにがぁいコーヒーも甘いものがあるともっと美味しくなるとおもうの。
それはお前が一番楽しみにしていたことだろう、俺がやってしまって良いのか?……そうだ、こうしよう。俺が半分を掛けるから、お前はもう半分を掛けてくれ。
(彼女が引き結んだ唇と、すぐに覆い隠してしまった笑顔に忍び笑いを漏らしては、小さな手を指さし代替となる提案を告げて。小さな銀の中に満たされたシロップをバターに注ぐのはほんの少し。温かな液体で少しだけ凹んだバターにうん、と頷くと、こちらへ押された皿をもう一度彼女の方へ。その間に彼女が乱入者へ向けた言葉は己が言葉を惜しまずに告げる普段のものと重なり、その通りだと言わんばかりに目元を緩め。しかしその言葉を掛けられた対象が乱入者だと気づいてしまえば裏腹に口は引き結ばれて。目まぐるしく変わる表情は直近の間笑顔しか見せていなかったことと反比例するようでもあり、現状には気が付かないまま彼女の動向を見守る。ぴくり、と動いた眉は差し出されたフルーツサンドを見てのもの。反射的に動いた腕は白い皿の中の色彩豊かなパンへ。風神に差し出されたはずのフルーツサンドの一つをひょいと摘み上げると、そのまま口に運んでしまって)
……これでもうお前の分はない!俺の可愛い可愛い黎明が寄越したものはすべて俺のものだ。お前の分があると思うな!
わぁ、ありがとう。君はとっても良い子なんだね。
(答えた共に差し出されたのはおそらく彼女の好物。自分の好きを惜しげもなく差し出す様子は下手をすれば自己犠牲精神とも取れそうなものだが、自分が愛されていることを疑わない言動が添えられたことで印象が百八十度回転する。彼女と彼の応酬を目にする間にコーヒーとキッシュは全て胃の中に収められ、空になった皿を目敏い店員が下げに来ており。やがて横取りされたフルーツサンドにあーあ、とわざとらしく落胆のため息をついたのは、これから先の展開を優位に働かせるため。眉を下げて悲しげな顔を作っては、保護者の喚きには目もくれずただ彼女だけに視線を定めて)
折角君がくれたのに横取りされちゃったな。僕、なんにもしてないのにな。
!、………お父さま、めっ。
(シロップをかけるその瞬間が一番期待値が高まり気持ちが高揚してワクワクが抑えられなくなる中で、その瞬間を大好きなお父さまに譲ると言うのは後ろ髪を引かれて諦めるに諦めきれない所。そんな時にシロップ以上の甘やかしの声と殆どを残してくれた状態で戻してくれた優しさに、単純にも嬉々とした感情をほんの少しも抑える事が出来ずぱあ!と明るい表情になり。シロップピッチャーに指先を絡めて、パンケーキに向けて傾ければとろっとした中身がこぼれ落ち。この瞬間が楽しくて嬉しくて仕方がないのだと音や声が無くとも幸せを全身で表し、まずは先にパンケーキを頂こうとピッチャーを置くのとほぼ同じタイミングでお裾分けをしたはずのフルーツサンドは、渡したはずのお兄さまではなくお父さまが食べてしまっている姿と対峙して。思いもよらない状況に己の動きはぴたりと止まり、耳に届くのは罪悪感を掻き立てる落胆の声。もっとお兄さまの事を知っていたなら騙されることは無かったのかもしれないが、落胆が本当の物だと疑わずにチョロいがそう受け止めてしまえばパンケーキに口をつけることは出来ず、黙ったままキョロキョロと二人の顔を何度か見比べて。たっぷりの時間を置くとお説教をする為に頬を膨らませて、私は怒っているぞと表に出して前述の注意を送り。「お父さま、れめはケチんぼより優しいお父さまがすきよ。……お腹がすいてたなられめの分、食べてもいいの。だからお兄さまにいじわるしないで」お兄さまが作る悲しい表情が見えない矢となりちくちくと罪悪感を与えるのか、今の行為が空腹のせいならばと父に向けたフォローを入れつつフルーツサンドの皿の角度を変えてもう一度お兄さまへ。お説教モードにスイッチが入ったせいか初対面ながらに喧嘩平等と注意をつけ加えて)
お兄さまも美味しいものを前にして、悲しいお顔はだめ。
あ、ああすまない…!どうか嫌わないでくれ黎明…!
(最愛の彼女に嫌われては生きていけないと垂れ下がった眉は神の威厳などどこかへ置いてきたような情けないもの。同時にこの原因を作った主犯である風神には気配だけで殺気を向け、器用に湿度と冷気を両立させつつ頭を下げ。否どちらかと言えば自身の行動が原因に近しくはあるのだが、愛娘との楽しいひと時を邪魔しただけで死罪にも等しいのだから同じことだ。「こいつには……お、俺が奢っておいてやるから黎明はなにも差し出さなくていいんだぞ…」血が出るほど唇の端を噛むほどにはその言葉を口に出すのが悔しいのか、やがて上げられた顔の中、血走った目で風神の方へと視線をやり。自身の気の所為であればいいが、同席している風神の様子に何やら不穏なものが混じり出している。膨らむ警戒と彼女に嫌われたくないという私欲がせめぎ合い、結局表面上は大人しく食事を摂ることにして)
うん、ごめんね。どうやら保護者よりよっぽど出来た子みたいだね、黎明ちゃん。……ふふ、欲しいな。
(再び差し出された皿と注意を聞き届けては、大して気にした風もなくうんうんと頷き。返答的に果たして忠告の内容を理解しているのかどうかは甚だ疑問だが、彼女の方へとやんわり皿を押し返し「育ち盛りなんだから、君はたくさん食べたほうがいいよ」とのんびり言い切って。自身は既に食事を終えているのだから気にする必要もない。彼女が言葉に従うのならば満腹になるまで時間を過ごすことにしようか。お手洗いに立った隙に会計は既に支払い済み、皿の中身が空になったのを見届ければ椅子を引いて。ヒュウ、と吹いた風は外風ではなく内側に渦巻くもの。凪いだ室内に出現した風に目元は隠され、にやりとした笑みの浮かんだ表情も同様に隠されて。靡いた服の端に巻き込まれるように、幾重にも重なる声が響くことだろう)
『──さて、もう良い?』
・・・・
失礼致します!お返事のたびに黎明ちゃんの可愛さにニッコニコになっている背後です。「そろそろ区切りが良いかなぁ」と思いまして、顔を出しに参りました。この後の展開で風神が黎明ちゃんを掻っ攫い、ついでにその場に雷神を向かわせようと思っているのですがいかがでしょうか?他に展開のご意見などあればお伝え下さると嬉しいです…!
(『嫌わないでくれ』だなんて冗談にもならない事を弱弱しい仔猫のように訴えるお父さま。お父さまったら変なの。呼吸も、脈を打つ事さえも、お父さまが傍に居てくれなきゃ何一つ満足になんてあたし出来ないのに。どうして嫌いになんてなれるというのか。新雪の色を垂らして頭を下げる姿を前に、不似合いな満たされる感情がぷかりと浮かび上がって。幼子がきゃらきゃらと笑うような無邪気さを持って”んふふ”と笑って「だいすきなお父さま、大丈夫よ。れめはお父さまが思ってるよりもずうっとお父さまが大好きだもの」。お父さまに向けた囀りと、お兄様から中身が減ることなく戻ったお皿。再度、目の前に広がるのは絵本の中のような完璧なテーブルで。今度こそ遠慮なく、甘くて柔らかくて一口食べるたびに幸せが重なる品を楽しみ。途中席を外すお兄さま、そのタイミングでお父さまとお皿の中身を分け合いながら食べ進めると十分過ぎるほどの甘さにお腹だけではなく心も一緒に満たされて。己の知らないお父さまの事を聞きたくても聞くことが出来ずに隠しきれない好奇心を抱えたまま、両手を合わせて食後の挨拶を。─────その時だった。壁があり屋根がある、屋内という場所ではあり得ない程の風に目を瞑ってしまって。頭の中で響くような鈍く掠れる重なる声に閉じてしまった目を開いて、慣らすように何度か浅い瞬きをぱちぱちと。目を開くのと同時にそこにいると信じて疑わない姿を呼んで、座っていただろうその席に顔を向けて)
まあ!びっくり。元気な風さん、……ねぇ、お父さま
・・・・
お声がけ有難う御座います。
此方こそ夜刀さんの二人に対する対応の違いや格好良く可愛らしい所にも、朝霧さんのふわふわと掴めない飄々とした魅力にドキドキしながらお返事をさせて頂いておりました…!背後様の文章表現が美しくて読みやすくてとても勉強になります!
場面転換についても、とても自然な転換を有難う御座います。雷神様にもお会い出来るのがとても楽しみでしたので嬉しいです!流れに任せつつ交流させて頂ければと思っておりますのでまた何かありましたら遠慮なくご相談ください…!
── 宴を催す鍾乳洞
(しぃん、と静か過ぎて逆に音が響き渡るような暗い鍾乳洞は時折垂れてくる水の音以外に何の飾りもなく、風神が下駄を地に付ける足音が唯一の人気となった。外気に左右されること無く一年中快適な涼しさを保つそこは自身にとってもお気に入りの場所で、同時に新たに開拓した「保管庫」でもあった。ふわりと傾いだ袴の端をなんでも無いことのように捌くと、数秒遅れ風に包まれて己の腕の中へと運ばれるであろう彼女の現れを待ち、そしてそれが達成されるとするのであれば、にこにことした笑みを浮かべて身体をキャッチする。いわゆるお姫様抱っこ、と呼ばれるのであろう体勢で彼女の顔を覗き込むと、その造形の整い具合に益々満足したのかいつも浮かべている笑みを深めて。「二人きりになれたね、お嬢。今日はねえ、宴の用意をしていたんだよ。君みたいに丁度いい子が居てくれたのは僥倖だったな、宴が華やかになる。」ざっざっ、と奥部に足を運ぶにつれて微かな太鼓、笛、カチャカチャと慌ただしく皿を運ぶような音が目立ち出す。朝にも関わらず段々と夜の照明のような明かりがぽつぽつと灯り出し、さながら雰囲気は夜宴。風神の足元を駆け抜けていく小さな人型は全員何かしらの仮面をつけており、ひょっとこにおかめ、狐面に般若面などを被り表情を覆い隠しながら着物の端をはためかせている。準備のために奔走しているらしいのだが、それでも風神に敬意を払う立場の身ではあるのか駆け抜ける際には一度立ち止まって礼をしていく。大きいもので風神の膝下ほどの背丈しか無い小間使たちは、見上げた神の抱える女子が今までになく手厚い扱いをされていることに少々驚きを覚えているようで、一瞬だけ仮面の奥の視線を交差させてはまた仕事に戻っていき。やがて目的地として辿り着いたのは最奥部。ずらりと並んだ朱塗りの高坏の上にはまだ何も置かれておらず、準備が整っていないことを意味しており。上座に用意された2つの高坏の前に敷かれたこれも朱塗りの座布団の上に腰を下ろすと、同時に彼女を隣の座布団に下ろそうとして。ぱんぱん、と両手を叩けばおかめの小間使が即座に持ってきたのは網目の細かい笊と二つのサイコロ。片手で弄んではパシ、と纏めたそれを彼女へと見せながら、返事も聞かない内にどんどん話を進めて)
君もまだお腹は空いていないだろうから、宴の準備が整うまで僕と遊ぼう。……そうだな、その前に賭けをしようか。もし君が賭けに買ったら、君を無事に返してあげる。どう?
・・・・
お褒めの言葉をありがとうございます…!こちらこそ背後様の黎明ちゃんの魅力を十二分に引き出した流麗でありながらもお茶目なロルを拝見するたびに学ばさせて頂いております!
それでは、上記にて場所を転換させていただきました。もしも改善点や疑問点などがあればご連絡ください!
── 宴を催す鍾乳洞
(しぃん、と静か過ぎて逆に音が響き渡るような暗い鍾乳洞は時折垂れてくる水の音以外に何の飾りもなく、風神が下駄を地に付ける足音が唯一の人気となった。外気に左右されること無く一年中快適な涼しさを保つそこは自身にとってもお気に入りの場所で、同時に新たに開拓した「保管庫」でもあった。ふわりと傾いだ袴の端をなんでも無いことのように捌くと、数秒遅れ風に包まれて己の腕の中へと運ばれるであろう彼女の現れを待ち、そしてそれが達成されるとするのであれば、にこにことした笑みを浮かべて身体をキャッチする。いわゆるお姫様抱っこ、と呼ばれるのであろう体勢で彼女の顔を覗き込むと、その造形の整い具合に益々満足したのかいつも浮かべている笑みを深めて。「二人きりになれたね、人の子。今日はねえ、宴の用意をしていたんだよ。君みたいに丁度いい子が居てくれたのは僥倖だったな、宴が華やかになる。」ざっざっ、と奥部に足を運ぶにつれて微かな太鼓、笛、カチャカチャと慌ただしく皿を運ぶような音が目立ち出す。朝にも関わらず段々と夜の照明のような明かりがぽつぽつと灯りだし、さながら雰囲気は夜宴。風神の足元を駆け抜けていく小さな人型は全員何かしらの仮面をつけており、ひょっとこにおかめ、狐面に般若面などを被り表情を覆い隠しながら着物の端をはためかせている。準備のために奔走しているらしいのだが、それでも風神に敬意を払う立場の身ではあるのか駆け抜ける際には一度立ち止まって礼をしていく。大きいもので風神の膝下ほどの背丈しか無い小間使たちは、見上げた神の抱える女子が今までになく手厚い扱いをされていることに少々驚きを覚えているようで、一瞬だけ仮面の奥の視線を交差させてはまた仕事に戻っていき。やがて目的地として辿り着いたのは最奥部。ずらりと並んだ朱塗りの高坏の上にはまだ何も置かれておらず、準備が整っていないことを意味しており。上座に用意された2つの高坏の前に敷かれたこれも朱塗りの座布団の上に腰を下ろすと、同時に彼女を隣の座布団に下ろそうとして。ぱんぱん、と両手を叩けばおかめの小間使が即座に持ってきたのは網目の細かい笊と二つのサイコロ。片手で弄んではパシ、と纏めたそれを彼女へと見せながら、返事も聞かない内にどんどん話を進めて)
君もまだお腹は空いていないだろうから、宴の準備が整うまで僕と遊ぼう。……そうだな、その前に賭けをしようか。もし君が賭けに勝ったら、君を無事に帰してあげる。どう?
・・・・
少々誤字がありましたので訂正させていただきました、すみません!
(戸惑いも驚きも全てを置いてきてしまったかのように、許容を超えた現象を前にしてはなす術なく無力を晒す事となり。今日という一日が夢の中の出来事では無いなら、少なくとも出向いたのは赤煉瓦が織り成す風情に溢れた喫茶店で薄い膜を張るような湿った空気の洞窟ではなかった。意識が頭の働きに結び付くのに時間を使うと、驚いたと状況の処理が終える頃には体が宙を浮き抱えられた姿で身を任せていた。内部では抑えられないくらいに確かな鼓動を繰り返す心臓が、より焦りや戸惑いを強調してしまう。痛みすら与えるドキンドキンと高鳴る緊張の音に喉が渇くほどの恐れが浮かび、そんな感情を簡単に塗り替えてしまうほど綺麗な笑顔が迎えてくれた。子守唄のように甘く優しく聞こえる声が状況説明と言うにはざっくりと説いてくれた事で少しだけ、本当に少しだけ視野を広げることが出来たらしい。今あたしがいる場所はどこ?どうしてお父さまがいないの?お面のあなた達は誰?──無事に帰ることが出来ない可能性も?。ぎこちなく呼吸を行うと、優しくとも冷たくともどちらにも見えるからこそ底が見えないお兄さまの顔を二つの目が追いかける。まぁるく開いた目は不思議そうに彼の顔を追いかけたまま、ぺたんと女の子座り。体の力が抜けたと言うのが正しいのかもしれない、お祭りのような太鼓や笛の音が日常を切り離すようで怖いだなんて。そんな風に思う己がいることにもびっくりしたのだ。そんな風に頭を悩ませることすらこの場所には相応しくないと教えられるように気がつく頃にはお遊びの内容が決まっていた。愛想という愛想を振りまくように、小鳥が囀るような愛らしくか弱く見せた笑い方で微笑むのは甘皮だけ。薄い皮の外で柔らかく穏やかに笑みを魅せると「お兄さま。あたし負けちゃう賭け事はきらいよ。運否天賦に身を任せるのに人の子がお兄さまに勝てるとは思えないもの」お父さまとのやり取り、人の子と言う呼び方、お面をつけた小さな子のお兄さまへの接し方。そのいずれもがお兄さまが普通とは違う事を象ることだけは理解ができる。そんなお兄さまと大事な条件を賭けて遊ぶなんて、そんなのきっと「──お父さまに嫌われちゃう」そうよ、そう。お父さま。お父さまに嫌われちゃう!その想像は右も左もわからないこの状況下よりもずーっと恐ろしい!そんな思いが乗った声でぽつりと呟き。仔猫が甘え擦り寄るように、しゃなりと前のめり。すらりとした首を伸ばして、朱色の座布団にぺたりと両手の平をついた姿でずっと抱え込んでいた興味や好奇心を少しも隠さずに輝きとして眼に浮かべ、お喋りの催促を。)
お兄さま、ひみつにしてね。あたし、びっくりしちゃったの。だって、お父さまったらお兄さまの前だと子供みたいだったわ。あんまりにも可愛くて、ふふ。ね、お兄さま。お兄さまもそう思うでしょ。
背後より失礼します。とても楽しくやり取りさせていただいている中このようなことを伝えるのは本当に心苦しく、またみっともないことだとは思うのですが、展開構成に少し詰まってしまいまして…。三日も全くお返事が浮かばず、自身の頭に歯がゆい思いをしておりました。
俗に言うスランプ、というものだと考えられるのですが、このままお相手していただくのも、恐らく一週間以上が掛かるであろう期間お待たせするのも申し訳なく、勝手ながらここで物語に終止符を打つという形にさせていただきたいです。一切背後様に落ち度はなく、流麗な文章と可愛らしい黎明ちゃんにいつも癒しを頂いておりました。再度になりますが、本当に申し訳ありません。そして、このようなご縁をいただけたこと、本当に感謝しております。自得な募集にお付き合い頂き、ありがとうございました。黎明ちゃんと背後様の未来に幸多からんことをお祈りします。
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