銀河鉄道の夜　/ NBL、指名制、無登録

>海蛇座

………とんだ洗礼だったな。認めて頂けたようで何よりだよ。
( 形として一応は理解を示しておくが全面的に信じたわけではないと、淡々と紡がれる男の独り言はそういった意図を表明しているようだ。しかしその鋭い洞察力と注意深さを持つ視線に晒されれば、後ろめたいことは何一つ無いにせよ、彼にこれ以上自分の情報を渡してはいけないように感じ、特にそこへ口出しすることはなかった。彼の許可を得てようやく黒焦げのマフィンを食す義務から解放されると、完食を強いられているとばかり思い込んでいただけに予想外の慈悲に拍子抜けしながらも、速やかに口元を拭ったハンカチで食べかけのそれを包む。男を満足させたことについては達成感よりも寧ろ屈辱感が勝るが、牛乳を再び一口飲み深く呼吸をすることで毛羽立つ精神を宥め、背凭れに深く身体を預けた。少しだけ心が緩み余裕が生まれたことで、男の独り言の中で気になった一言、恐らくは“小狐のカムパネルラ”を形容した言葉を思い出す。そう、自分は面識のないその“小狐”とやらの人物像を、先ほど語られたマフィン作りのエピソードから得た“料理あるいは菓子作りが得意らしい”という情報のみを元に描いたとき、先入観によってなんとなく家庭的な女性だろうと想定していた。それがどうやら実際のところは男性、それも逞しい見目の人物ということが今の男の発言から発覚すると、そのイメージとの差に何気無く言及しながら、男の抱えるギフトボックスの中へ視線を落として )
――そういえば、てっきり小狐というのは女性かと……いや、前時代的な偏見だな。聞かなかったことにしてくれ。

>20 身分証