イニール 2022-01-26 01:00:51 ID:0ee18fced |
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> イールトルートさん
(/ ちょっと文章まとめ切れませんでした。少しずつ短くできるようしていきますのでご容赦ください。)
頭には目深に被った帽子を。目にはサングラスを。片手には革張りの木製スーツケースを。
もう片手で持った地図相手に睨んだり唸ったりしながら慣れない様子で歩く男。それが彼の姿だった。
所作に漂う苛立ちからは見知らぬ街並みと不親切な地図に対する怒りが伺える。
奮闘と彷徨の末にようやく彼の城、(極力配慮した言い方をすれば)質素で人々の温もりに満ちた集合住宅へとたどり着いたようだ。
安堵とともに地図から目を離す。
目に入ったのはもちろん集合住宅。そして彼のよく知る種族だった。
「やぁ、ここには天使もいるのか。あー、僕は今日からここへ越してきたピアノマンだ。長い付き合いになるかこれっきりになるかはまだわからないが、よろしく頼むよ。」
先程までの苛立ちは虚空へかき消えた。
異郷で同郷の者に出会えた安心感か、「ピアノマン」と名乗る男はサングラスを外しフレンドリーな微笑みを浮かべた。
厚かましさと図々しさこそあるものの、にこやかに挨拶する姿だけを切り取れば気のいい若者そのものだろう。
ただし、彼の目と口の中は燃えていた。
情熱に燃えているとか、辛いカレーに悶絶している様子といった漫画的比喩ではなく、彼は文字通り燃えていた。
眼窩の奥に目玉はなく、三日月型に歪んだ唇の向こうには歯も舌も喉奥も見えず、あるのはメラメラと真っ赤に燃え上がる炎の壁だけ。
男の内側は燃えていた。ぽっかり空いた3つの穴の中で炎が踊る様子は、悪趣味なハロウィンのカボチャ提灯のようだった。
彼は、ピアノマンとにこやかに名乗った男は悪魔であった。
同時に彼はこの街においてなんの変哲もない、代わり映えもしない、ありきたりな存在であった。
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