刑事A 2022-01-18 14:27:13 |
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アダムス医師
( 此方の皮肉にまともに取り合わない、全く以て悪びれた様子の無い返事を少しの躊躇いも無く返して来た相手に隠す事の無い大きな溜息を吐き出す。患者を前に溜息なんて医師としては如何なものかと思われるかもしれないが、この状況ではそうもなるだろう。されどこれ以上互いに皮肉を送りあっても売り言葉に買い言葉状態が続くだけだと思えば、そこに関して更なる言葉を返す事無く袖の捲られた細めの腕に消毒をし静かに針の先端を皮膚に貫通させ静脈に安定剤を流してゆき。注射器内の薬が相手の身体に回り気持ち的にも体調的にも落ち着きを取り戻すまで然程時間は掛からないだろう、その中で案の定“休職”に対して聞く耳持たぬの態度を貫かれれば『本来ならば警察を辞めて環境を変えるべきだ、とまで言いたいんですよ。警察で在り続けるならば嫌でも遺体を見て、あの時と同じ様な事件に携わる事にもなる。それは貴方自身が大丈夫だと思っていても少なからず心にも身体にも影響を及ぼすんです。関係無くはない。』軽く首を左右に振り、あくまで“休職”は医者である此方の最低譲れる所なのだと強調しつつ針を抜き、そこに保護パットを貼ってから視線を合わせ静かに口を開き。『…薬を強くすれば直ぐに抑える事は出来るかもしれませんが、それは根本的な解決では無いし私はその方法が貴方にとってベストだとは思いません。…あの事件を忘れろ、乗り越えろ、と言うのは簡単ですが、当事者にとってはとてつもなく難しい事である事も理解しています。』一言一言をゆっくりと紡ぎながら、“エバンズさん”と相手の名前を挟み再び口を開き『…時間は掛かるかもしれない、直ぐには難しくともほんの数分…数秒でも良いんです、“未来を考える時間”を増やして下さい。私はフラッシュバックの一番の解決方法はそれだと思っています。』相手には酷かもしれぬ言葉を真っ直ぐに伝える。あの時の事件で妹が、大勢の人質が亡くなったのは自分のせいだと今尚思い続けている相手が自分だけ幸せな未来を、などと考えられない事は昔からわかっている事 )
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