死神の鎌 2021-10-24 20:48:22 |
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>貢朱巳
(彼等を襲った妖魔は中々の手練れだったのだろうか。妖魔の巣窟となっている辛界に潜り込むという死と隣り合わせの非常に危険な仕事を請け負う幻影隊は皆、戦闘能力が高い。ましてや隊長格となれば言わずもがなである。それなのにあんな怪我を負ってしまったのだ。厳しい条件や事情があったのかもしれないが苦戦を強いられた事には変わりない。それほど辛界の妖魔は強い事を改めて思い知った。でも無事で何よりだと安堵したのも束の間、何処と無く違和感を覚えた刹那、自分の頭に感じた無骨で、それでいて暖かみのある大きな手に撫でられていると気付いた。無骨な手からは想像出来ない優しい感触に何とも言えない心地よさと申し訳なさを感じては僅かに目を細める。まるで小動物にでもなった気分だ。頭を撫でながら、いたたまれない様子で自らの非を認め謝罪の言葉を口にする相手に、ふるふると頭を横に振ってそれを否定して。個人差はあれど上の立場になればなるほど、頭を下げない、自分の非は認めない、その非を部下のせいにするなど横暴な振る舞いが目立つようになる傾向があるが、目の前の彼には全く当てはまらない。それに穏やかさ、謙虚さ、部下想いを兼ね備えているのだ、下の者達から慕われる筈だ。負傷したあの部下はずっと謝っていた。喋っては駄目だと何回言ったことか。離れていく手に、いつまでも撫でいてほしいと名残惜しさを感じつつ次に告げられた言葉に、シュンとしていた表情を、まるで蕾が花開くように明るくさせてこくりと頷き「ありがとうございます…!」と至極嬉しそうに謝意を述べる。大好物をお預けにしてきて良かったと心底思った。相手が自分の影を読んだことなどこれっぽっちも知らずに。脳内が甘い物で完全に支配されるのを留まらせたのは先程感じた違和感。普通なら気にも止めない仕草、グレーのコートを前方に寄せたのを見逃さなかった。腕を通さず羽織っている為胴体の様子はすっぽり隠され外からは窺い知れないが、自分から見て左側、つまり彼は右側を庇っている。ほんの僅かな、凡人ならどんなに注視しても絶対に分からないほどの、力の微妙なかけ具合から推察。それを微塵も感じさせない様子の相手は流石と言うべきであろう。怪我をしている、それも軽傷では無さそうな。そう確信しこのまま報告へ行ってしまう前に何としてでも手当てをしなければと、真剣な表情で、尚且つこの後取る少々強引な手段を悟られまいと静かに彼の名を言えば素早く行動に移して。失礼を承知の上で相手の右側のコートを捲り上げようと手を伸ばし)
朱巳隊長……失礼しますっ…
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