いつでも、お傍に

……す、すまん
(下手をすれば火が燃え移り、自分達の命が危ないところだった。調子に乗りすぎたと痛感し、執事の皮肉には反論せず。急に難しい魔法に手を出すべきではないな、と少し反省したようで)

花でも咲かせてみては？
(反省している様子の彼に、それ以上は何も言わず。どこから持ってきたのか、まだ蕾もついていないバラが植えられた鉢を受け皿を受けて床に置き、「順序を考えてイメージする練習です」と、彼が先程の失敗をこれ以上気にしないように目の前の課題へと注意を引き、)

……、わかった
(少しばかりしゅんとしていたが、新しい課題を前にして気合いを入れ直し。再び脳内で、ハッキリ、鮮明にイメージを膨らませると慎重に杖を振る。すると植木鉢全体が光に包まれ。その光が消えると、先程まで蔓や葉、茎のみだったバラの苗に蕾が数個ついており、あともう一押しで咲くところまで来ていて)

あと少しですね
(本来ならば一気に咲かせるのが成功だが、今の彼にはこれくらいがちょうど良い、力量に見合った結果だと言いたげな表情で。蕾がついた分、先程の火花の魔法よりかマシだと思いながらも、彼を試すように「咲かせますか？」にやりと笑いながら蕾を指さし、)

、最後までやる
(自分の手で花を咲かせてこの魔法は終わりにしたいようで、執事に宣言して。そう言ったからには失敗は出来ないぞ、と慎重に杖を振ると、蕾がゆっくりと開き)

…はい、差し上げます
(ゆっくり開き出した蕾は、そのまま綺麗な花を咲かせた。ぱちぱちと彼に賞賛の拍手を送れば、咲いたばかりの薔薇に向けて杖を傾け、少しだけ水を上げて。このまま庭に戻しても良かったが、思いつきで彼にプレゼントして。)
その感覚を忘れないでくださいね、

……ありがとう
(床の鉢を拾って抱き抱えるとお礼を言って。無事花開いたことが嬉しかったのか、こうして彼からプレゼントを貰ったことが嬉しかったのか、自然と頬が緩んできて。彼にそれがバレないよう慌てて顔を背け)

おや、まだまだお子様ですね
(思いの外喜んでくれた彼を見てにっこり。頬を緩めたのだろうか、慌てて顔を背けた彼の子供のような反応に、思わず声を出して笑ってしまい。直射日光を避けて半日陰に置くようにと、育て方まで走り書きでメモに落として彼に差し出し)

っ、笑うな！
(背後から笑い声が聞こえてきたため、やはり彼に見つかってしまったと慌てて振り返り。恥ずかしさ故「別にそこまで嬉しくなんかないからな！」と言い放つも、しっかりメモは受け取っていて)

はいはい、では夕方に課題を取りに来ますよ？
(しっかりメモを手にした彼の行動と、正反対な彼の言葉にどうしようもないな、と言いたげな表情で。ここからは彼の自習の時間、自分は事務作業を済まさなければならない。「分からなければ呼んでください」一声かけては彼の部屋を後にして)

……む、
(執事を視線で見送った後、課題は早めに終わらせておきたい、と机上の山のような課題達から一冊本を手に取ってパラパラと捲り。魔法の勉強は実習だけでなく、基礎知識として暗記も含まれるのが正直憂鬱で仕方無い。やる気がおきないからといっていつまでもここでぶつぶつ言っても目の前の課題が減るわけ無く。渋々椅子に座って筆記用具や紙を準備すると、効率は悪いがせっせと課題をこなしていき)

…―失礼します、
(それから数時間後、辺りが茜色に染まり切った頃。彼の部屋の扉を数回ノックしてはかちゃりと鍵を開けて中に入り。大人しく椅子に座っているところから、彼なりにきちんとやっていたのだろうと察して。「課題は全て終わりました？」彼の後ろから覗き込み、)

……終わっ、た
(ノック音が聞こえると同時に最後の１問を解き終え、筆記用具を持つ手も止まる。背中から聞こえてくる執事の問いかけに返事を返すと、力尽きたのか机に突っ伏すかたちになり)

はい、たしかに全て終わっていますね
(課題全てをぺらぺら捲って簡単に確認する。失礼かもしれないが、終わらないのではないかと思っていたので、よほど頑張っと見受けられる。杖を振り、テーブルの上にアップルパイと紅茶を置けば「ご褒美です」と一言、)

……！
(机に置かれたことん、という音に顔を上げれば、目線の先に大好物が。一口分をフォークで切り取って口の中へと運ぶと、あまりの美味しさに勉強の疲れなんて吹き飛んだように無邪気に笑い。)

お疲れ様です
(向かい側の椅子に座り、彼の食べる様子を見守る。その無邪気な笑顔で、こちらの疲れも吹き飛ぶようだ。あまりに美味しそうに食べるものだから、こちらまで食べたくなってきてしまう。思わず彼のアップルパイを見つめてしまい、)

……なんだ、じろじろ見て
(ご褒美を味わっていると、自分の手元辺りに視線を感じ。執事の方にチラリと目をやると、彼の目線はアップルパイへとのびていて。暫く考えて、手元のアップルパイと執事とを交互に見つめると、一口分切り取って)
ほら、早く口開けろ

い、いえしかし…これは、お坊ちゃんのご褒美ですので
(まさか自分が、彼にわかるほど態度に出ていたというのか。たしかにアップルパイは美味しそうだな、と思ってはいたが、だからと言って執事たるもの、彼のご褒美を減らすわけには行かないと首を横に振り、これでも駄目ならもらってしまおうかと彼を見て、)

五月蝿い、ごちゃごちゃ言うな
(執事の口から出てくる、自分にとって言い訳がましく聞こえた言葉達を一蹴すると、あげないという選択肢は無いらしく、アップルパイの乗ったフォークを彼の口許へと突き付け)
……その、さっきのバラのお礼も含めてだ、いいから口開けろ

…いただきます、
(仮にも自分の主人は彼なのだ、これ以上拒否し続けるのは失礼にあたる。もう既に口元まで突きつけられていた、アップルパイ乗せのフォークを前にしながら彼に言われた通り口を開け、)