図書委員長 2019-11-24 02:38:36 |
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こんな気持ちになれたの、桐島さんのおかげだよ。…桐島さんが教えてくれたから、こんなに幸せになれたの。
(相手がいい言葉だと言ってくれたそれは、自分にとっても心に響く大切な言葉。自分が相手に初めてときめいた日、どうせ自分には身分がないから、どうせばれたら迷惑がられてしまうから、どうせ本を探し終わったらすぐに出て行かなければならないからと、心の奥では気付いていたはずの気持ちに向き合おうともせず、傷つくことや恥ずかしさから逃げるように誤魔化してしまおうとしたあの日に、自分に嘘をつくのは良くないと教えてくれたのは他でもない目の前の相手で。もしもあの時、誤魔化し通していたならば相手との今の関係も、尊い思い出も、この幸せも全てが無かった。そんなことをしみじみと考えれば、少し苦しいくらいに自分を抱き締めている相手の腕の力も今はとても心地よく感じられて、痛いくらいのぬくもりが愛しくて、そっと目を細め、嘘をつきたくないと思えるほど大切な気持ちを知れたのは相手のおかげだと嬉しそうに告げると、甘えるように相手の胸元に顔を埋めて)
…えぇっ!?そんな………!
────の…。
(相手にとってはどんなに小さな声だったとしても、全く聞こえていなかったとしても、自分からしてみれば恥ずかしくてたまらない台詞を既に一度言い、更に二度目を求められている状況である。求められたからといって平然と二回も繰り返せるはずもなく、相手の言葉に驚いたように勢いよく顔を上げると、その瞳は余計に潤み、顔から火が出そうな程にますます紅潮し、両手で大きく意味のない動作をしながらあたふたと動揺していて。こんな状態の自分が意地悪モードの相手に敵うわけもなく、諦めたように下ろした両手の拳をぎゅっと握りしめて小さく息を吸うと、今度は下ではなく相手の目を見つめながら先程と同じ言葉を口にするものの、一度目よりも二度目の方が恥ずかしいのは当然か、震えている上に語尾以外はほとんど聞こえないくらい、先程よりも小さな小さな声で)
遠回し………、
(相手が恥ずかしがっていることなどつゆ知らず、相手は遠回しに愛情を表現する方が好きなのだと、貴重な情報が得られたということで頭はいっぱいで。好きな人のことは何でも知りたい、好きな人の好みはもっと知りたい、そして好みに近づきたい、そんな乙女心ゆえに浮かれてしまう気持ちが抑えられずにニヤニヤと表情が緩んでしまいつつ、相手の言葉を復唱し、自分の顎に人差し指を当て視線を宙に向け考え込むような仕草をしながら、遠回しとはどんな言い方をすれば良いのだろうかと真剣に考えを巡らせていて)
……決める前に、教えて?
あたし、本の中に戻ったら、…本の中のあたしは、次の誕生日、17歳になった日に───、
(帰りたいなら帰る、残りたいなら残る。相手が示した二択のどちらでもない、〝残りたいのに帰る〟という選択を今まさにとろうとしている自分の中には、先程見た嫌な夢、リアルすぎる夢の内容が色濃く纏わりついていて。それは自分が次の誕生日を迎えた時の夢、その日に自分は───それが実際の本のストーリーなのだとしたら、それが本来の自分の運命なのだとしたら。思い当たる節は無いわけでもなく、フェンスを握っている自分の手に一瞬視線を向けて。ただ本が呼んでいるだけなら屋上に導かずとも普通に一階の昇降口から出ていけば良いだけの話で、こうして屋上に導かれ、フェンスを乗り越えるような行動をとろうとしている意味、もしかしたらそれは、本の世界に戻らずとも結果的にこの世界の自分が本来のストーリーと同じ目に遭えば、誕生日までに同じ結末を辿えれば辻褄が合うように出来ているのではないかと、必然的にそうなるように出来ていて、この世界に留まったとしても運命には抗えないのではないかと…考えているうちにガクガクと足が震え、相手に本の内容を確認しようとするも、冷たく吹き抜ける風がそれ以上を語るのを拒んでいるようで、見えない風に遮られるようにその先は言葉にならずに詰まってしまい、物悲しく髪を靡かせながら視線を足元に落とし、そのまま黙り込んでしまって)
…名前呼ばれるの、好き。あたしの名前が好きだし、…桐島さんに呼ばれるのが、大好き。
(記憶のない自分にとって、今の自分の名前は相手が与えてくれたも同然の、とても尊くて愛しいもの。そんな大好きな名前を大好きな相手に呼ばれる度、存在を認められているように、自分を求めてくれているように感じられて、とても満たされ、優しい気持ちで胸がいっぱいになる。キスをしてしまった恥ずかしさより、名前を呼ばれて抱きしめて貰える嬉しさに身を任せていたくて。大好きな相手の香りに包まれてドキドキと胸を高鳴らせながら、ただ名前を呼ぶだけの行為に込められた大きな愛を噛み締めるように、ほんのりと頬を染めつつふわりと微笑み囁いて)
わ、分かった!
…お願いします、桐島さんに酷いことしないで…!!
(自分だけ安全なところに避難するのは非常に情けなく罪悪感があるものの、ただでさえ足手まといなのだからこれ以上迷惑をかける訳にはいかないと、相手の言葉に素直に従い、部屋の四隅のうち一番遠い角まで何とか駆けていってうずくまり。顔を伏せていても二人が争うような音は絶えず耳に入り、このまま自分は何も出来ないまま、ただ相手が傷ついてしまうかも知れないのを見過ごすのかと思うと耐え難くて。被害は少ない方が良いに決まっている、ダメ元でも良いから何とか話し合いで解決出来ないものかと、甘い考えかもしれないが何も言わないよりはましだろうと、うずくまった体勢のまま、声を届かせるために顔だけを上げ、必死になるあまり裏返った声で青年へ訴えかけ)
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