隊長 2018-10-24 21:35:56 |
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(絞り出すように語られる心情は、相手を長年縛りつけてきた苦しみに感じた。実際は苦しみなんて生半可なものではないだろう。言葉から、口調からそれがひしひしと伝わりまた胸が軋む。人の情に流されて飲み込まれてしまうのはいつ以来だろうか。黙って相手の話を聞き相手のグラスにワインが注がれるのを見て、続く問いかけにこちらも一口ワインを飲んで。
人間らしさ、か……。ある意味そうかもしれないな。
__俺は、あの日から、母親が亡くなったときから人と必要以上に接触するのを避けてきた。それは隊務で人を殺めるときに無駄な情を抱かないようにするための上からの言いつけでもあったが本当は…失うのが、怖かったからだ。だから付き合っても、最低な話だが本気にはなれなかったし一線を引いていた。ずっとそうやって逃げて、自分を守ってきたはずだったんだ。……お前と会うまでは。
(視線を落としたまま一気に語るが、胸の苦しさは一層増す。ここまで来てまだ迷う自分がいる。本当にいいのか。伝えてしまっても許されるのか。今まで自分の気持ちも意見も通ったことなどない。定められた答えしか出して来なかった自分にとって、自らの感情を、想いを伝える行為は押し付けでしかなく、非常に慣れないことだった。それにまた、失うかも知れない。それでも言わない選択肢は残されていなかった。
おかしな話だ。はじめお前なんてただの犯罪者でそれこそ消す気でいた。なのに、自分を暴かれて、お前の内面を見るたびに取り繕っていたここが揺らいだ。お前が男に愛を否定されて『愛してた』と情を顕にしたときもその愛に惹かれている自分がいた。__お前に会ってお前を知るほどにここが揺すられた。
(懺悔でもしているようだった。ときおり胸に手を当てて想いを吐露するがどうしても硬い口調になるのはきっと性格だ。冷静なようで正直相手の表情を確認する余裕すらない。しかしここでようやく顔を上げて相手の双眸をまっすぐに捉えて。
俺はお前の心を満たしたい。これまで抱えていた不安も寂しさも全部受け止めたい。
…あの時、交わした約束_お前がどこにいても見つけられるように、そばにいたい…。
(やっと目を合わせたのにやはり相手の表情を汲む余裕が微塵もない。またあの軽口であしらわれても文句は言えない。言い返す気力もないだろう。おもむろに腰をあげると、唐突に相手の襟首を掴んで引っ張り上げるとミニテーブルを挟んだ状態でこちらに引き寄せその唇を触れるだけの口付けで奪う。すぐに顔を離すと一気に近付いた距離のまま相手の瞳をみつめ「名前を、教えてくれないか?」と。恋情でも友情でもない、名のない感情だった。)
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