…Blue Moon

(彼の後ろ姿が消えたのを確認してから己の部署へと足を向け、邪魔になっていた重い荷物を備え付けの社員用ロッカーへと放り込んでいれば先程の同僚が視界へ入る。行く先を遮るよう壁に寄りかかりながら背中に刺さるような視線を向けられれば横目だけでなんだと問いかけ返しつつも相手と世間話をしてやる義理も無いか、と頭の中から己に向けられる視線をｼｬｯﾄｱｳﾄして今日の業務へと取り掛かる。

そろそろ帰る人がぽつぽつ出始めた頃、ﾃﾞﾌｫﾙﾄの着信音と振動が鞄越しに伝わる。素早い動作で業務用電話へ手をかければ耳に入ってきた内容と声に微かに目を細めつつ「今から行きます」とまるで仕事先に向かうような静かな返事をしながらPCだけが出た己のﾃﾞｽｸに目線を戻し それでは と一方的に通話を切れば早足でﾛｯｶｰへと向かい預けていた荷物を手にｴﾝﾄﾗﾝｽへと足を向ける。先に到着しているであろう彼に飲み物でも買おうと自販機で珈琲の無糖と微糖の二本を選別する。「佐久間さん、お疲れ様」と今朝方見掛けた彼の姿を確認すれば後ろから声を掛け 電話ありがとう と連絡をくれた事に対する礼の言葉を口にして。)