カタバミ 2018-03-01 19:09:33 |
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突き出した口から煙を吹き出すと、隣へ座る相手の顔へたちまち白くぼやけた半透明のそれが幕のように覆う。いきなりの事もあり予想外の行為に驚きつつ、少しむせて咳き込む姿は大人の代名詞の一つとして扱われる煙草に慣れていないとすぐに分かる。それもそうだろう。その年に近付いてはいるが、彼はまだ完全に満たしていないのでもうしばらく吸う事は許されない。青年とはいえ、未だ子供らしさの残る状態に思わずクスリと笑ってしまう。
「…っ何、するんですか。突然」
喉をさすりながら、どこか恨めしそうに僅かに睨む顔を見つめてこちらは、なんだと言わんばかりに知らんふりをしてみせた。薄っすらと浮かべた口元がそれを打ち消しているのだろうけど。
「いやあ?気にすんな。俺が今やった事なんざ、どうでもいい気まぐれってヤツ」
そう。この行為自体に意味はあっても自分はそれほど意識してやった訳ではないし向こうもあの反応の様子を見るに、どうやら知らないらしい。下心に関して少なくとも、今はそういった気分に包まれていないのは現状における事実だ。単なるその場の気分。なんとなく、というもので。
今度は別方向へ呑気に煙を吐いていたら、不意に自分の耳元へ何かの気配が距離を詰めたかと思うとすっかり聞き慣れた密やかな声がしっかりと届いた。
「……残念。僕も貴方のように煙草を使えるなら、吹き返していたんですけどね」
「……え」
それだけを言い残すと、少し得意げにしながら部屋から立ち去っていかれてしまった。恐らく間抜けなほどに呆然とする自分、それから煙の匂いだけが動かずにいる。どれくらいの時間が経ったのか分からないまま、次第に顔が熱くなっていく事を嫌でも感じ始めた。悔しさや恥ずかしさ、それ以外にも言葉で説明しずらい感情が混ざり合い、行き場を失ってぽつりとこぼれ落ちる。
──やられた。
【煙草を顔へ吹きかける意味】
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