カタバミ 2018-03-01 19:09:33 |
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(インターホンへ手を伸ばし、一度だけボタンを押すと音が鳴った。
あれから一ヶ月と数日間は経った気がする。日数を細かく律儀に数えている訳ではないので断言出来ないが、それでもいくつか時間が去った事に間違いはない。久々に彼の姿を目にしようとしている。突然現れたため、きっと驚くのであろう。同時に本来ならば僅かな欠片でも思い出したくない記憶を強制的に脳裏へ浮かんでしまいんだろうなとぼんやり思う。そんな思考とは対照的に雨は短い衝撃を辺りへ狭く走らせながら、続けざまにそれを繰り返す。風によって服は翻り、髪は乱れる。
無機質な音を立てつつも、扉は緩やかに開き始め自分はその奥にいる者の見つめて反応を待った。鋭い線を描く目はいつもより大きくなり、どれもこれも人々が切り離したいと思うような感情で揺れ動いている。こちらの予想とは露骨に離れておらず、むしろ一致に値するがやはりその表情はどれだけ見ていてもまるで飽きが来ない。長く見つめ続けていたいという純粋な欲求が生じる。だが、自分はそれ以上に苦痛と底知れない嫌悪に満ちた姿を知っている。自分だけが、あの光景を知っている。自然と湧き上がった優越感に身も心も浸らせるが、理性を歪ます事はなかった。ひとまずは挨拶でも済ませようと口を開く。)
………久しぶりだな。元気そうで何よりだ。
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