カタバミ 2018-03-01 19:09:33 |
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(夜も更けて、人や鳥の発する声が著しく減っていき辺りにはひっそりとした暗い空間に包まれる。本来ならばただただ静かな時間が朝日を迎えるまで続くのだが、今夜は違う。夕方から降り出した雨は最初こそ弱いものの、その威力は強さを増して屋根に穴を通してしまうのではないかという不安を滲み出させるほど水の塊は連続して周囲の接地面を打っている。今、窓を開ければ容赦なく霧よりかは大きいだろうがそれでも細やかな雨水の断片が室内へ入ってくる光景は容易に想像出来る。闇夜に覆われ、先を見通す事の叶わない窓の奥から視線を離す。
インターホンの音が鳴り響いた。
こんな豪雨の中、そしてこんな時間帯に一体誰が。そう純粋な疑問が浮かんだ。加えて雨音が酷く強いにも関わらずやけに鮮明に、まるで耳のすぐ近くで聞こえた事も。一瞬、体が停止したがすぐさま扉へ目を向けた。再びインターホンは鳴らないが、客人は当然こちらへ来てもらえる事を既に分かって待っているような気がするのは何故だろう。人物を確かめるため足を動かし、取っ手を掴んでは扉を開けた。そこには自分よりやや背の低い男が立っており、両目と口元は緩やかな曲線を引いて微笑んでいる。傘を持っていないようだが、髪の先や服の端ですら少しも濡れていない。───どうして、ここにいるんだ。後ずさりも驚きによって声を漏らす事もないまま、体が固まる。途端に嫌悪、憎悪、恐怖などの感情がおびただしく溢れ出す。目の前の男が、ゆっくりと口を開いた。)
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