カタバミ 2018-03-01 19:09:33 |
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「───初めまして、王子様!」
目を覚ました男がいた場所は、満月が煌々と輝く夜の花畑。そして、紅いワンピースを纏う一人の少女が微笑みながら立っている。
王子様?なぜそう呼ばれた?ここはどこだか知らないし、そもそも自分の事が思い出せないとはどういう事だ?
湧き上がる疑問に歪む顔とは異なり、歩み寄ってくる少女の笑みは一層深くなる。真っ直ぐとした短い髪は純粋に黒く、見つめた者を絡めとってしまいそうな黄金の瞳の形はあどけない。気付いた時にはもうすぐそばにいた。男の手を握りしめる姿は、待ち焦がれた恋人を離すまいとしているように見える。自分はこの手を、どうするべきか?
記憶喪失の男×恋人のように振る舞う少女
銃声が鳴り響く。その音を発した拳銃の持ち主は指も、肩も、足も、何から何まで細かく震えている。口を開くと、声も震えていた。
「……あんたはさ、俺が何してきたのか分かってんだろ?」
「そりゃ勿論。見た目と違ってお前は本当にアクティブなやつだよな」
答えた人物の調子に変化はない。以前、談笑した時と同様のままで偏った感情は表面には出ていない。内心は違うのか、そうでないのかは判断が出来なかった。変わっていない。会った当初から、ずっと飄々としていた。
どうやっても誰も救えない少年×掴みどころのない隣人
「さあ、逃げよう。私が貴方を死んでも守ってみせる」
点滅するランプ。機械による警告音。それらは全て、侵入者、異常事態、早急に対応すべき出来事をけたたましく告げている。
「ここから先はお断り禁止。私達だけのハッピーエンドを奪ってやろう!」
陰湿なこの部屋とは随分不似合いな、力強くあまりに眩しい彼女の笑顔が沁みるように綺麗で、頷くだけでも精一杯だった。外はあたたかいと聞いた。けれど、頭を優しく撫でてくれる彼女の手の温もりに勝るものはないだろうと、ふと思った。
愛を知った魔女×何も知らない怪物
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