ほのか 2018-02-25 17:46:31 |
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「うちの娘は大丈夫なのか?」
医事課総合主任はNICUの看護師に詰め寄った。NICUの看護師は
「んだ。見た目はタダの早産の未熟児じゃが、ウヂの主治医の判断でオランダ製の保育器に入れちょる。」
と答えた。NICUの看護師は続けて
「何で主任のお子さんがふづーの保育器に入れんとオランダ製の保育器に入れたか、知っちょるか?」
と問うた。
「そりゃあ、俺の娘だから特別扱いだろう。あの保育器の導入の件はNICUの主治医も知ってるはずだ。特別仕様の保育器を一度に10台も導入したんだ。オランダ政府との交渉にもかなりの時間をかけた。当然だろう。」
「違う。」
「じゃ、何だ?」
「おらが聞きたいくらいじゃ。」
「どういうことだ?」
「ご主人。お子さんは生まれた時からエイズの保菌者じゃ。万が一の他のゴドモへの感染を防ぐためにオランダ製に入れちょる。生まれた時からじゃけん、感染経路は母胎からじゃ。」
NICUの看護師は主任をにらみ付けた。
「お子さんの母親は美人でぇ、よその大学生からもようモテてたが、エイズをもらうようなふしだらな女やない。昔は血液製剤でエイズをもらうこともあったらしいけんど、あの子は輸血を受けるような病気やケガもしとらん。」
「・・・俺に何が言いたい?」
「奥さんと結婚後にお子さんを設けた時にエイズが移ったとしか考えられん。・・・ご主人、ホンマに心当たりはあらへんのか?」
「・・・。」
思い当たるフシのある主任は黙り込んでしまった。
「・・・やっぱりな。そつらのボンベを交換スてくれるお二人もカンセンからきたんじゃから、なんか病気もっとるんじゃろ。3人ともここから先へは入れられん。」
カレシは
「では看護婦さん、我々はどうやって酸素ボンベの交換を?」
と尋ねた。NICUの看護師はノートパソコンやドライバー等の工具を鞄に詰めながら
「サンスやチッスなんかのガスの配管点検用通路からガス棟へ行くんじゃ。おらは警備員室のコンピューターをハッキングして通用門を開ける。」
と答えた。主任はあわてて
「そんなことして失敗したら病院の情報システム全部がダウンするじゃないか!保育器の管理システムはどうなる?」
と怒鳴った。
「ご主人。『ハニカムブロックチェーンテクノロジー』て知っちょるけ?サーバー同士をネットでリンクさスて情報を共有するブロックチェーンを蜂の巣みたいにさらに広げた技術じゃ。この病院の情報システムは、医科大学や附属看護専門学校のブロックチェーンシステムともクラウドコンピューティングでリンクしちょる。おらがいじるのはその中の警備員室のサーバーだけじゃ。」
「ふーん、看護婦さん。なかなかイカしてるじゃねーか!」
とオトコは感心した。
「おらの父ちゃんはタダの転勤族じゃねーべ。防衛医科大学を出てPKOやら駆けつけ警護やらで世界中飛び回った、『何でもできる医者』じゃ。負傷した隊員の手当もしながら敵の通信記録も盗んで米軍に渡したりもしてた。おらは父ちゃんと一緒に仕事したくて医者になりたかったんじゃが、昔事件になった女子受験生差別をいまだに引きずっとって、おらは看護師にしかなれんかった。」
「あ~、あの東京医科大学の事件か。ありゃひでーよな。」
「おらの『趣味の顔』は、父ちゃん譲りのハッカーだべ。」
「うちの娘は本当に大丈夫なんだな?」
主任はもう一度NICUの看護師に問いただした。
「エイズ以外はな。」
NICUの看護師とオトコとカレシの3人は、配管点検用通路の中に消えた。
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