ほのか 2018-02-25 17:46:31 |
通報 |
「あんた」
女はまたしてもびくっとした。これで3度目だ。”女医”の男声には毎回驚かされ、その度に背骨がピンと伸びる。
「あたいは今何を持っていると思う?」
女は考えた。
『「何を持ってる?」って・・・そりゃあ医者なんだから医師免許は当然持ってるし、30代半ば位だから車の免許も持ってるはず。ベンツとかポルシェとか、高級な外車も持ってるかなぁ。一戸建てとかマンションも持ってるかも?お金はあって当然よね。後は・・・えーっと・・・彼氏!・・・は・・・いるのかなぁ。』
”女医”は女の前で両手を開いた。
「何も持ってないわ。」
『・・・。』
「ま、正確に言うと、白衣の他はこの院内PHSと名札の裏側の医療スタッフ認証用ICカード1枚だけよ。これはロックされたドアを開ける時に必要なの。便利な世の中になったわよねぇ、これ1枚で勤務時間中何もかも管理できるんだから。」
”女医”は続ける。
「お金や名誉はあればあるほど欲しくなるとか虚しいとか、アンタの年頃なら1度くらい聞いたことがあるわよね。武器も同じよ。持てば持つほど不安になってもっと持ちたくなる。」
女はきょとんとなった。
「『護身術』を習っても肝心な時に役に立たないのは、『本当に大事なもの』を忘れているからよ。第一、あんた1人でそんなにたくさん武装できるの?カレシ側の男が言ってたけど、あのバズーカ砲、男の体で担いでも相当重いらしいよ。アメリカ製の最新型だって言ってたわ。何で日本にあるのか知らないけど。」
「・・・でも、先生は私に銃を持たせたじゃないですか!」
「それは『保険』。ここは病院よ。あわてて発砲して他の患者に弾丸が当たったら誰が責任を取るの?あたいの指示なしにはいかなる発砲も絶対に認めないし、そもそもあんたにそれを使わせるつもりもない。分かった?行くわよ。」
”女医”と女の2人は37番職員用出入り口に向かって歩いた。40分ぐらい歩いただろうか。医科大学附属病院といえども、こんなに大規模な病院は日本には滅多にない。看護師の子供がいる産科NICUを避けながら精神科閉鎖病棟へゾンビをおびき寄せるには、この出入り口しかなかった。
女は”女医”の言葉が気になった。しかし今は”女医”を信じて付いていくしかない。
『「本当に大事なもの」って・・・。』
トピック検索 |