ほのか 2018-02-25 17:46:31 |
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浩二の左足の生体サンプルを取るために検査室に予約を入れた9時30分を過ぎた。が、遼子も友秀もイライラしている。
「・・・浩二のヤツ、一体どこへ行ったのかしらねぇ・・・。友秀、この病院にアイツの行きそうなところって、あるのかしら?」
「さあ・・・。アイツは先生も知っての通り、メカいじりだけでなく何でも興味を示すヤツですから、アイツの行きそうなところと言えば、大がかりな医療機器ぐらいで・・・。」
「だからあたいは悟の引き取り役としてアイツをCT”治療室”に行かせたのよ。あそこはただのCT検査室じゃない。あそこも部外秘と言えば部外秘だから、委任状にはあたいの直筆の署名と押印がないと入れないところなのよ。」
遼子と友秀の後ろから絵里子が話しかけた。
「先生。主人も神父さんも戻ってきてないし、みくるちゃんも玲奈さんもいないんです・・・で、先生、白衣はどうされたのですか?」
遼子はほおづえをついてぼやいた。
「それも分からないのよ。目が覚めたら脱いでここにおいたはずの白衣も名札もない。ったく、どうなってるのかしら。」
3人とも30分ほど考えたが妙案はない。絵里子は2人にある提案をした。
「あの・・・、お2人ともおなかすいてません?非常食しかありませんけど、こうしていても始まりませんし、今のうちに腹ごしらえをしておいた方が・・・。」
「そうだな。先生、そうしましょう。」
「・・・分かったわ。インスタントでいいからコーヒーもお願い。」
絵里子は非常食を3人分持ってきてコーヒーを淹れた。3人はそれぞれ自分の分の非常食を開封して黙ったまま食べていたが、絵里子が友秀に話しかけた。
「カレシさん、お名前は?」
「あ、ああ、今さら申し遅れました。佐藤(さとう)友秀です。斉原先生とは高校時代の同期で、その時からの友人です。で、今いない方のアイツは真島(まじま)浩二。高校の後輩です。ま、韓国のこと以外はアイツにこき使われっぱなしですけどね。」
「3人とも同じ高校だったんですか?だから仲がいいんですね。」
「ま、腐れ縁ってところね。」
「ところで、CT”治療室”って何ですか?私はこの病院の外来しか知らないもので・・・。」
「外来や通常入院で主治医が検査指示を出すCTスキャンが放出する放射線の数倍から数百倍の放射線を出してしつこい水虫やアトピー性皮膚炎のような広範囲な皮膚病を治療する医療機器ですよ。部外秘の扱いになっているのは、装置本体がアメリカ製で、厚生労働省からの認可をまだもらってないからです。一般的に見ても、チェルノブイリ原発や福島第一原発の事故の影響もあって強力な放射線は毛嫌いされていますからね。」
「水虫やアトピーなら最近はいい薬が出回っているのに・・・ですか?そもそも、そんなに強い放射線を浴びたら皮膚ガンや白血病の可能性が・・・。」
「放射線を出す直前に皮膚の炎症の深さをレーザーセンサーでピンポイントで測定して放射線の照射量と照射時間を量子コンピュータで瞬時に計算して水虫菌やアトピーの細胞を焼いてしまうんです。1カ所の照射時間は長くても通常のCTスキャンの大体10分の1です。」
「つまり、ガンの放射線治療みたいなもので、患者が浴びる放射線の総被ばく量は普通のCTスキャンと大して変わらない、と言うことですか?」
「1回の治療でどんな皮膚病でも完全に治すけど、レーザーセンサーの微妙な誤差で健康な皮膚も焼けてしまうから治療前に比べて皮膚が少し黒ずんでしまう。腹を撃たれた男が日焼けしたように見えたのはそのため。厚労省はこれが気に入らないのよ。でもウチの病院は患者や保護者の同意が得られれば保険適用外でこれを使う。だから部外秘扱いなの。なぜこんな明るみに出せないことをやるのかは、あなたには話したわよね。」
「『米軍の軍事研究の1つ』、ですか?」
「政府の偉いさんもひどいものよねぇ。広島と長崎に原爆を落とされ原発事故も起こしているのに陰ではアメリカ言いなりに兵器や原子力を使う未認可の医療機器を買うなんてさ。」
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