リルンの小説~記憶の数々語り~

リルンの小説~記憶の数々語り~

リルン  2018-01-22 22:08:36 
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  • No.3 by リルン  2018-01-22 22:31:36 

ネガティブ思考症シリーズ 第三弾「ネガティブ思考と新たな試練」

 この世界は残酷だ。何回も何回もそう思い、このようにしか考えられない原因不明の病。そう、これがネガティブ思考症。貴方達の世界で言えば、「鬱病」に近いだろう。でもこの病はそれよりもっと酷い値になる。ネガティブ思考すると同時に、世界はその思いと同じようになり、思考者ををもっとそう思わせるという恐ろしい病気だ。さらに先程言った、〝この世界は残酷だ〟という言葉を使うことで、今の世界が崩れ、新しい世界へと舞台が変わることも最近分かった。世界変化する際の影響はほぼないが、時に何人かが世界変化に巻き込まれ、死に至ったケースもある。実を言うと、私の大切な人もその一人。変化に巻き込まれ、死んでしまったのだ。影響はもう一つある。それは、世界変化を起こす度に、記憶の一部がなくなること。私も大切な人の顔・姿を忘れてしまって、分からなくなったからだ。何故、そんなに知ってるかって? ……それは私もその病の患者だったから――……

 私はついに、永遠にいようと誓う仲間が出来た。名前はアミン。彼女は、両親からの愛を求め、世界変化を起こしたのだと言う。しかし、両親の愛は本物で、〝愛したかった〟という気持ちだったことを知り、後悔で心が埋め尽くされたのだと……。事情は違えど、ネガティブ思考症には間違いない。私は、この人となら〝今度こそ〟一緒に歩いていける気がした。彼女との約束……守ると誓った。だって、彼女の傍にいたいから。

 ある日、私はアミンがいる所に行こうと歩いていると、
「…………て分かったの……!」
アミンの声が聞こえた。先客がいるようだ。
「貴方のオーラよ。貴方のオーラは他の人と違うからね」
と、知らぬ女性の声。
「またオーラって……。だから何? オーラって……」
「簡単に言うと、個人の雰囲気だよ。雰囲気が風や空気によって、流れてくるの。……これで分かるかしら?」
「つまり、貴方はアミンのそのオーラを感じ取って、此処に来た訳ね」
「! トキ……」
「……初めまして。あたしはメフィー。ネガティブ思考症の謎を調べてるの」
「……私はトキ。メフィー、何故アミンを追う?」
「あたしは、思考者を探してた。けど、どうもアミンは他の思考者と違ってね」
「ただ単にオーラが違うだけじゃない……」
と、アミンは溜め息つきながら言った。
「貴方はただ、オーラの特別なアミンを実験台として使いたいだけでしょ?」
「!?」
「トキ……?」
「アミン。オーラが他の思考者と違うことは、かなり珍しくてそれは専門家も能力者も注目しているの。そして、実験台にしたがってる」
「……トキ、貴方はなかなか鋭いわね。その通りよ。私は専門家。ネガティブ思考症にも、様々な発病方法があるらしく、それを調べているの。調べてたら、アミンのオーラを感じて、今までと違うって思ったの。それからあたしはアミンを追うようになったの」
「……私のオーラ……」
「今日はこれで引き上げてあげる。でも、また来るから」
そう言うと、メフィーは部屋を出て行った。
「……アミン。メフィーって……」
「……メフィーは、珍しい物に特に興味があって、見つけると自分の物にするまで追うの。しつこくて……」
困り果てたようにアミンは苦笑いした。
「……て、私とアミン、オーラ違うのは分かるけど、アミンのオーラはそんなに特別?」
「……特別らしいよ。私は全然分からないけど。周囲も、よく私の方へ視線を向けるし……やっぱり特別?」
アミンは苦笑いした。私はどうもそうは思えなかった。オーラが特別だったとしても、所詮、人間は人間だ。他の人と何も変わらない。
「貴方は普通だよ。特別じゃない。オーラが他の人と違っても、人間には変わりない。だからアミンは、他の人と同じ。私と同じなんだ……」
「……トキ……。そうだね」
アミンはようやく笑顔を見せてくれた。私はその様子にほっとした。

 数日後、私はアミンの部屋に行くと、アミンがいなかった。
「あれ? 何処行ったのかな……?」
アミンを探すことに。しかし、何処見てもアミンの姿はなかった。ある場所を横切ろうとすると、異常な臭いが充満していた。
「! 何、この臭い……」
その臭いの方へ行くと、そこには……
「……! アミン!!」
アミンが倒れていた。
「アミン! しっかりして……!」
アミンの意識はある。生きていることに少しほっとするが、危険な状態であることには変わりない。
「……とりあえず、此処から出ないと……」
すると、ガタンと物音がした。後ろを見ると、外の光がなくなっていた。
「え……」
出口が塞がれ、私達は閉じ込められてしまったようだ。……それにしても、此処は臭いが酷い。私の体調も悪くなってきていることが分かった。
「う……早く……出ないと……アミンが死んじゃう……」
私は必死にもがく。が、敵わず、ついに気を失ってしまう。
『これで二人は確保した。ふふ、実験が楽しみだわ』――――――……

 此処は何処だろう? ほわほわとして、何だか気持ちのいい所だ……。ん? ほわほわ?
「……ん」
目を覚ますとそこは巨大なビーカーの中のようだ。
「! ビーカー!? ……てか、アミンは……」
アミンは向かいのビーカーの中にいた。目を閉じていた。裸にさせられていた。まだ意識は戻ってないようだ。
『やっと目が覚めた?』
ある声に、私は反応する。
『貴方達を悪くするつもりはないわ。……大人しくしていればね』
「……メフィー……」
『数日ぶりね、トキ』
「でも、貴方が必要なのはアミンだけじゃ……」
『前まではそうだった。でも、気が変わったの。貴方も連れて行こうってね』
「……実験台にされるんですか」
『そんなことしないわよ。でも、あたしの研究に手伝ってもらうけどね』
「……っ。私達を実験台にしないでっ!」
『……悪くはしないわ。大人しくしていれば』
「……此処から出して……」
アミンが意識を取り戻し、メフィーを睨んだ。
「! アミン……」
「トキ、此処から出るよ!」
「え……? どうやって?」
「こうやって……さ!!」
アミンは持っていたナイフをビーカーにぶつけ、割った。
「! 私も!」
偶然持っていたナイフをぶつけ、割った。アミンは素早く服を着る。
「逃げよう!!」
「うん……!」
アミンは私の手を引いて走る。
「……待ちな」
威圧のある声に私達はギョッとし、止まった。
「あたしに逆らうとは、いい度胸してるわね……あんた達」
口調が変わり、より追い詰められる。
「……あんた達が逆らう気なら、仕方ない……。トキ、アミン。あんた達には死んでもらう」
「!」
怯えるアミン。でも、私はじっとメフィーを見た。私はいつも、人間に裏切られてきた。……これで何度目だろうか? 言葉によって人を傷付けるのは。
「……どうせメフィーは死ぬ。どうせ死ぬ……」
そう、ネガティブ思考した。
「……! トキ……?」
「!? やめ……ろ…………」
メフィーが苦しみだす。
「貴方はとんだミスをした。ネガティブ思考者に何かすると、命の危機が迫るんだよ……」
「……え?」
メフィーは驚く。まだこのことを知らなかったようだ。
「ネガティブ思考者はネガティブ思考すると、それ通りになり思考者をもっとそう思わせる、そうでしょ? でも、その力を使って、人を傷付けたり、消したり死なせたりも出来る」
「……っ。あたしは簡単なことを、見落としたんだ……。馬鹿だよね、あたしは」
メフィーの瞳は、どんどん光を失せていく。もう死が近いようだ。
「……。どうせメフィーは死なない」

 アミンを助けるため、自分の身を守るため、私はメフィーを殺すと決めた。なのに、何故か殺せず、言葉によって人を助けた。
「……どうして……?」
メフィーは目を見開いて尋ねる。
「……殺したくないから」
「え……?」
「私達の病、ネガティブ思考症について分かってること言う。だから、もうこれ以上私達に迫らないと約束して」
「……観察は?」
「……それは、アミンの許可が出れば、良しとする。勝手にするのは、許さない」
「……そっか。でもいい」
「?」
「あたしはあたしの力で調べるから。それでこそ、研究は面白いの」
「……とにかく、今回は貴方を見逃す。でも次はないよ」
「……ありがと……」
「メフィー。私を見るぐらいなら、見てくれていいよ。でも、今回みたいにしたら、もう許さないから……」
アミンは真っ直ぐ、メフィーを見る。
「……あたしは、あんた達の病を治す方法を考えることにする。アミンみたいにポジティブに考える以外の方法をね……」
「……メフィー。そうしてもらえると助かるよ」
そう言って、私とアミンはメフィーの研究所を後にした。
「……あんな思考者、初めてだ……。でも、まあまあ楽しめた。今後はあの二人を見守ることにしよう。……あたしの研究目的として」
メフィーは研究室に落ちている残骸を拾う。ビーカーが割れ、液体が出ている。もう、この部屋は持ちそうにない。メフィーが後にした研究室は爆発し、跡形もなく消えた。

 私達は無言で歩いていた。私はアミンの手を取り、早歩きする。
「……トキ……?」
「!」
急な呼び掛けに、私は驚いた。
「……トキ、何でメフィーにそんなチャンスを与えたの……?」
「……アミン、私は信じたくなったんだ。人は、ネガティブ思考者を閉じ込める人ばっかではないことを」
「え……」
「……私の周りにいた人は皆、私を閉じ込めた。そこは隔離病棟。口と身体……全身を縛られ、身動きも取れなかった。でも、ある人が現れてから私の人生は変わったの。それの影響でもあるかなー……。メフィーの最期の嘆き……ではないけどさ、〝馬鹿だよね、あたしは〟という言葉を聞いて、私の心の何かが動いた気がするの。それで〝殺してやる〟が〝殺したくない〟に変わって……それで、メフィーにチャンスを与えたの」
私は昔のことを思い出す。隔離病棟に入れられ、全身を縛り付けられた絶望の日々。一人の人によって、その運命は崩れ、人生に光が差した。しかし、あっけなく世界変化によりいなくなってしまった。能力者によって。私の精神は壊れ、能力者を殺した。でもあの時……メフィーの時は、〝殺してやる〟という気持ちの何処かに〝もう誰も傷付けたくない〟という物があった。きっと、キラルやアミンの影響だろう。頭の中で……心の中でキラルが悲しんでいるように思えた。それで私はきっと……。
「……トキの言う、〝あの人〟はそれ程大きな存在だったんだ……」
「うん。当時あの人が来た時、他の看護師と同じように、そそくさ帰るだろうと思った。でも、起きた時、異変を感じたの。身体・口の縛りが無くなっていたの。……驚いたわ。その人がこう言ったの。〝大丈夫……? 縛られていたからね。さすがに酷すぎるもの〟……これがあの人との初めての会話。その人は当時、名の無かった私に名前を付けてくれた……」
私の目から溢れる涙……。アミンは近寄って私の涙を手で拭いてくれた。そして優しく――――……
「貴方の名前はトキだよ……」
私に改めて名前を付けた。そう、私はトキ、最初に好きになった人……キラルによって付けられた名前。生きている証を作ってくれた人。そして改めて私は、それを付けられた。アミンによって。アミンに拭かれても、涙は止まらなかった。悲しくなんかない。絶望の涙じゃない。悲しみはあるかもしれないけど、これは嬉し涙だ。そう思わせる程、今流れている涙が温かった。アミンがずっと私の傍にいてくれた。私の服に一滴、別の涙――アミンの涙。アミンが泣いている。アミンの辛い過去を詳しく聞きたいと思う自分がいた。でも、きっとそれは今知るべきではないと私は思った。私とアミンはしばらく泣いた。二人で悲しみではない何かを感じながら――――――……

―続―

※これは小説家になろうにて、リルンという名で投稿してるものです。
決して奪ったものではないので安心して下さい。あたしのオリジナル小説です。

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