死神 2017-12-31 11:56:53 |
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「無駄な残業はしない主義なんだ。働いて飯食って寝るだけの毎日じゃつまらないだろ?」(軽く毒づいて来た相手に笑みを返し、互いのグラスをカチリと合わせる。本音を言えばいち早くここへ来たかったからなのだが、どこか気恥ずかしくてそれは言えない。だが、言わずとも勝手に首から上の体温が上昇した気がして、それが今しがた肌に触れた外気との差のためなのか、それともこの心境によるものなのか、判然としないまま誤魔化す様にエールをゴクゴクと喉に流し込んだ。どうにも不思議な気分だ。今までにもパブで誰かと意気投合する事はあった筈なのに、一体何が違うと言うのだろう。無意識にそんな事を考えながら、何気無く相手の顔を見遣る。漆黒の瞳は、全ての光を飲み込んでしまいそうな程に深い。目を合わせると、まるで深淵を覗き込んでいるかの様な気分にさせられる。青白い頬と暗い表情からは、あまり酒を楽しんでいる様子は伺えない。思えば、気になったのはその横顔が最初だったかもしれない。彼がこの場所とアルコールに何を求めているのか。それが知りたくなったのだ。余りジロジロ見ては不躾かと思い、なるべく自然に目線を逸らす。大分打ち解けてきたとは言え、元々パーソナルスペースが広そうな彼だ。不必要な接触は好まないだろう。)
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