死神 2017-12-31 11:56:53 |
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(グラスに口をつけ、泡の少ないエールをちびりと一口。このぬるさもいつも通り、鼻から抜けていく麦の香りを楽しむ様に敢えてゆっくりと時間を掛けて飲むのが己のスタイルだった。特別酒に弱いと言う訳では無いのだが、毎週欠かさずパブに通う割に飲酒量は少ない。酔いが回り、思考能力がゆっくりと低下していくあの独特の感覚が嫌いで、いつもそこへ行き着く前に止めてしまう。自制を捨て、飲める所まで飲み、どっぷりと酔いに浸かったとすれば一体自分はどうなるのだろう――後方のテーブルから聞こえて来る酔った男達の世間話をBGMに柄にも無くそんな事を考えていた所為か、彼の声への反応はやや遅れた。思えば初めの頃は、掛けられる声に気が付いていながら視線のひとつもくれてやらない、そんな事も珍しくはなかったと言うのに、今では確りと彼の方へ顔を向けて「ああ、お疲れ様。」などと返事をする様になっている。これは立派な進歩だ。隣に腰掛ける見慣れた動作をこの日もいつもの様にぼうっと眺めつつ、乾杯を促す様にグラスを持つ左手を軽く掲げれば「…大雑把に見えて、此処へ来るのはいつもきっかり同じ時間だな。」と、友人を迎える言葉にしては聊か捻くれた言葉を添えて)
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