xxx 2017-12-05 23:46:58 |
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>36 タナカ ミノル
ふふふ…知っているから、知っているのよ。
(輪郭をなぞる様に這わせた指先に、じんわりと伝わる相手の体温を感じた。温かい――この温もりは、今この館に居るものの中で、今目の前に立つ相手だけがもつものなのだ。そう思えば、それが愛おしくて堪らない。不可解な状況に混乱し、動揺し、それ故に震えを隠せないその声がようやっと紡いだ質問に答えと言うにはあまりに不親切な言葉を返した。何で、と相手がそう口にした理由はひとつではないだろう。何故だと思わずには居られない理由を複数抱えたまま、この不可解で得体の知れない状況の中に放り込まれた相手の心情を察してか、柔らかな微笑を湛えながらゆっくりと顔に触れていた指先を離す。それから、向かい合ったまま数歩ゆっくりと後ろへ退いていく事で互いの距離を広げ、同時に玄関ホールの奥へと進んだ。相手が立つのは未だ館の入口近く、冷たい外気が扉の隙間から僅かに侵入するその場所ではきっと寒かろう。そんな思いから、徐に動かした右手が掌を上に向けながらゆっくりと、真っ直ぐ相手の方へ向かって伸びたまま持ち上がってゆく。軈て此方へ向かって手招きをするように小指から親指へと順に、優雅な動きで指先を曲げてみせながら「さあ――こっちへお寄りなさい。」と甘やかに囁いた。相手の体には見えない力が働き、すうーっと床の上を滑るようにして呆然と立ち尽くしていたその体が此方に向かって近づいてくるのを眺めては「ようこそ、あたくしの館へ…運が良かったわね、貴方はあのまま死んでしまう所を、館に引き止められたのよ。尤も、今はまだ、そうでも無いと思うかも知れないけれど。」と、恐怖心を超えた素朴な好奇心を宿す黒の瞳をじっと覗き込んで)
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