赤の女王 2017-12-03 23:18:48 |
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はは、おんぼろ屋敷かあ。あれはあれで住み心地は意外と悪くないんだが……まあ、侯爵さんがオレに愛想を尽かせてしまった時はそうさせてもらおうかな。(大きめのバットに敷き詰めたビスケットの上にティラミスの生地を落として表面を適当に均しておしまい。あとは数時間ばかり冷蔵庫に寝かして、最後のおめかしにココアパウダーを振り掛けてやれば立食会場に差し入れするには申し分ないだろう。新鮮みはあまりないし、調理に携わる職務に就いていた訳でもないのだから、あくまでもよくある家庭料理の枠を越えない一品。厨房までの道案内に応じてくれた彼の味見分と、いつも世話になっている同居人へのお礼の分も忘れてはならない。どうせ会場に持ち込めば誰彼が食べるのだから、始めからつまみ食いした状態でも構わないだろうという大雑把な思考回路の元、まだ柔らかな生地にスプーンを差し込み、エスプレッソに浸ったビスケットとほんのり色づいたクリームを器用に一口分掬い上げて。匙の上の澄まし顔に仕上げの粉を振り掛け、小さなティラミスの完成。己をロマンチストだと称した傍らの住人に匙に乗せた出来立てのデザートを差し出しながら、蒼眼を柔く細めて)……ふふ、そう言うウサギさんは抜け目ないな。じゃあ、味見の一口は、オレの手からってのはどう?
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