赤の女王 2017-12-03 23:18:48 |
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……すごく、うまそうだ。いや、あなたの選んだものだから、間違いないな。(目の前に並ぶ魅惑の品々にうっとりと双眸を細めながら得意気に笑う声に頷く。この国を訪れた最初の夜、彼の家で振る舞われた白ワインはそれはそれは美味であった。味蕾に刻まれたその味を思い起こす内、脊髄反射のように口内に唾液が滲み、ごく、と喉仏を揺らす有り様。彼の部屋を訪れるに至った本題はしばし意識の外。肝心の紙袋が自らの手の内を離れたことに気付いたのは相手からの問い掛けに答えようと、立ち上がりながら振り返った時「生憎とオレは酒は持ってきて…」視界に飛び込んだ予期せぬ光景に固まること数秒。会話に混ぜてスマートに手渡す筈だったプレゼントはもう既にかの人の手の中。今さらサプライズもへったくれもあるまい。心機一転とばかりに小さく息を吐いて気を取り戻し、固まっていた筋の力を抜くと彼に向き直り。照れることも臆することもなくその瞳を真っ直ぐに見つめると、口端を緩めて「メリークリスマス、侯爵さん。ここに来てから世話になってるあなたに、オレからの些細な感謝の気持ちだ」あえて自らの手作りであることは明かさず。紙袋の中には蓋付きのカップに閉じ込めたティラミスが二つと使い捨てのスプーン。ココアパウダーをまぶした表面にミントを添えたシンプルなドルチェは、果たして彼のお眼鏡に叶うのだろうか)
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