. Quiet Room .　

例えば病で悩む者に､血を飲めば癒されると教えたとしよう｡それで､魚の血を絞るか､自分の手首を切るか､人の首を掻き切るかは､本人の意思による選択だ｡俺の知ったことじゃない｡

退屈も､上手く弄れば娯楽になる｡

鉄の匂いを隠すために､鶏の血を撒くのは猟師の役目､か｡剥き出しになったﾄﾗﾊﾞｻﾐに足を伸ばす気はないよ｡

不便は退屈を助長させない｡不快と退屈のどちらがﾏｼだろうねぇ｡

人には人など容易く救えない｡その義務も権利もない｡そんなものは､誰にもない｡

死にたくもなる､死にたかったんじゃないか､死んでも仕方がない､自分なら生きていられない｡…これら一連の台詞が､生きている時点で本人に､惜しみ無く浴びせかけられていたとしたら､裏に隠された本意は何だろうね｡

狐は時おり好奇心から､人里に降りてくる｡そして人間に混ざって生活することが出来るのだ｡遠い､遠い昔､狐は彼の住処に､人間の傍を選びました｡狐はそこで人間のふりをして､友達を作りました｡でも少し弄っただけで壊れてしまったから､次の玩具を探して､今も狐は人間を食い散らかしてるんだ､何てね｡

愛しているから､愛されたいとは､これ如何に｡その二つは同じ様でいて､まったく異質なものなのにね｡

それだけ､の何と重いことか｡

200も近いし､そろそろ上げてしまおうかな｡

目的も､義務もない日々は､退屈だが平穏だ｡目を瞑ってさえ居れば､全ては過ぎていく｡餌を自力で取る必要さえない日々は､生き物として歪なものだろう｡

俺は拍手せよ､喝采せよ､と言い､この死を笑える者は笑えば良い､と放り出す｡命を惜しいとは思わなかった､…きっと俺は酷薄な人間なんだろうね｡己の死にも泣く価値は見出だせないよ｡他人の涙を､嘲笑う気もないけれど､泣く意味を理解する気もないんだ｡

退屈､だねぇ｡会話は一人では出来ないんだ､こればっかりは相手がいないと｡さて､どうしようね｡参った参った｡

自分だけが悲しんでいる､何て詭弁も良いところだ｡自分だけ悲しい､と主張するのは､自分だけは無罪にしたかったから｡所詮は､鳩ではなく､雀だったわけだ｡

結果の原因を俺にだけ求めるのは止してほしいね｡確かに俺は無実とは言い兼ねるけれど､予想していない結果が起きることも有るさ｡仄めかしたのは俺だが､相手が過敏に反応したことについてまで､責任を問われるのは御免だよ｡

「とてもだらしのない男がいた｡墓に納めたかったが､指は何処にも見つからなかった｡首はﾍﾞｯﾄﾞの下の奥に転がっていたし､手足は部屋中に散らばっていた」ってやつだね｡

自分の血潮と､内臓の中で生きるのは､考えてみれば､なんと淋しいことなのか｡

百年の眠りか､いいじゃないか｡この退屈が晴れるのなら､目覚めるのが百年後でも悪くはないよ｡百年後にも､ろくな娯楽はないような気もするけれどね｡

はてさて､どうやって時間を潰そうか｡誰かおいで､と言っても来ないだろうし､迷うね｡

…狐は所詮獣だ､人間とは仲良くなれない｡それでも遊ぶことは可能だろう､千切ってﾊﾞﾗﾊﾞﾗにして､間違えて繋いだり､裏返したりしてみせても､壊れなければ､きっと永く遊べるのにね｡