amt 2017-11-05 16:17:44 |
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【中枢】
切り裂いた血肉は、『ドール』とは違って生き物であることを生々しく知らしめてくる。鉄さびのような血の臭いと、獣臭さが入り混じって余計に吐き気を催しそうになるが、そんなことを気にしている余裕を与えてくれないほどの攻撃が、私めがけて次々と襲い掛かってきていた。
「ちっ!」
素早さで言えば私の方が上ではあるが、しかし、数の理で力負けしているのは明らかで、このままではいずれ力尽きるのはこちらでしかない。そうなる前に何か打開策を見つけなければ。
(打開策……打開策……!?)
だが、容易に思い付くものならここまで苦労はしていないのも事実。敵が湧いて出るのを阻止しようにも、中枢である『ブレイン』が本当にいるのかも、もしいたとしても居所などこの状況で分かろうはずもない。それに万が一『ブレイン』を倒せたとして、この獣たちがいなくなるとも限らない。獣は、『ドール』とはまた別の系統の敵である可能性があるからだ。
どういうことかと言うと、現状を見るのが一番早い。
「グルルァッ!!」
「………!」
獣と『ドール』が、互いに潰し合っている。『ドール』よりも早さで勝る獣がやや優勢に見えるが、首や手足を千切られようとも活動可能な『ドール』もしぶとく対抗しているようだ。だが、潰し合いだけに意識を向けているわけでもなく、あくまでもこちらに攻撃を仕掛けてきてもいる。
「ふっ!やぁぁぁ!!」
『ドール』の胴体を両断し、その上半身を獣に向かって蹴り飛ばす。当たりはしなかったものの、その一瞬を突いて小刀を投擲。獣を貫通して地面に突き刺さる小刀を回収すべく動くが、好機とばかりに『ドール』が道を阻む。投擲された短剣を、身を低くして避けつつ、『ドール』の顎を思いきり蹴り飛ばす。ガコンッ、と痛烈な音と共に『ドール』の頭が吹き飛んで胴体が仰け反る。すかさずその足首を掴むと、ありったけの力を込めて振り投げ、後方に出現していた『ドール』に激突させてやる。
「飛び道具の一つでも持っておけばよかった……!」
小刀を回収しながら独り言を零す。基本的に射撃のセンスが欠片もない私は、この愛用の小刀の他に使える武器がない。投げたりするのは得意だが、銃のように武器の力だけに依存するものはどうにも苦手だ。当たっても手応えが感じられなくて、感覚がおかしくなってしまいそうだから。
鎖鎌でも持ってこようか。そう考えているうちにまた敵が襲ってくる。
「これじゃキリがない……。」
『ドール』が十体以上、獣が少なくとも五体以上。見える範囲だけでもこれだけいる。状況は絶望的だ。
さてどうしたものか、と木陰に身を潜めていると、不意に何者かの気配を感じて上を見上げる。が、しかし、そこには誰もいない。
「……ケイ?リニ?」
そう声を掛けてみた。その時
「っ!」
咄嗟にその場を離れる。カカカッ、という音と共に今まで隠れていた木に三本の短剣が突き刺さっていた。まさかと思い、別の木陰に身を潜めて周囲を観察するが、何者かの影一つすら見当たらない。
(……まさか……。)
今まで僅かに考えていた可能性が頭をよぎる。
「『ブレイン』……!?」
だとすれば非常にまずい。見た限りではその姿どころか影すら見えない。今しがた感じた気配もきっとすぐ近くまで偶然接近したことによって感じ取れたものだとすれば、索敵は困難。まして勝てる気もしない。
……このまま様子を見るべきか、行動するべきか。私はどちらの選択が最善か決めあぐねていた。
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