✧ Fantasma Fantasia ─亡霊幻想曲─ ✧【3L】

✧ Fantasma Fantasia ─亡霊幻想曲─ ✧【3L】

✧   2017-10-03 15:45:25 
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「魔王だから滅びをもたらすのではなく
 滅びをもたらすから魔王なんですもの
 魔王というものは自ら孕んで
 自ら生まれる化け物です」

「魔法使いよ
 天と地の間には
 魔導書などでは計り知れないことが
 山ほどあるのだ」

「魔獣が暴威を振るうのは
 魔力があるからなどではなく
 我々がそれに忍従する為に他ならぬ」

「流血を怖れず 大胆不敵になれ
 魔族の力など笑いとばせ
 魔のはらからから生まれたものは
 誰ひとり騎士を倒せはしない!」

「ああ 勇者よ 勇者
 あなたはどうして勇者なの?」



   ────この世は舞台。
       人はみな役者────



✧ Character >01
✧ Story   >02
✧ World   >03
✧ Profile  >04
✧ Attention >05




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  • No.2 by ✧   2017-10-03 20:47:12 




殺戮を、死の克服を、絶対の闇を求めるうちに、いつしか先代の魔王を倒し、その玉座を手に入れていた。
それは西極、東極、北極という狭い範囲であるものの、自分は確かに絶対の支配者となることができたのだ。
日々戦いに明け暮れて。病を生み出し振り撒いて。闇を世界に浸食させて。
魔の覇者として更に己の能力を高く極めていきながら、少しずつ少しずつ、自分の領土を広げていく。
しかし、目下排除すべきは──絶対強者であるはずの己の命を脅かし得る、他の「魔王」と勇者たちの存在だった。



落ちに落ちぶれ数年間。遠い昔尊敬の響きをこめて唱えられた己の名前も、今では吐き捨てられるだけ。
かつての栄光は打ち砕かれて、人目を忍ぶお尋ね者だ。
ふと風の噂を耳にする。何でもこの国の御姫様に加護を与えられた若い勇者三人が、魔王討伐に乗り出したとか。
魔王討伐、その手があったか。自分の華やかな返り咲きに、これほどふさわしいものはない。



魔法に満ちたこの大陸を、ただ知りたくて知りたくて。
好奇心の赴くままに、各地を旅して見聞する日々。
できることならばもっと知りたい。叱る教授の居ない今、学院に閉じ込められては決して知り得ない危険な場所も、想像を絶する驚きの出来事も、全部全部、見て回りたい。
知って、書き留めて、後世に伝える。これほど打ち震えるものはない。



やはり人族は敵だった。
本来法的に禁止されている、神聖視される魔獣の密猟。あの愚かなハンターどもは、それを平然とやろうとしたのだ。
囚われるような醜態にこそなってやらなかったものの、魔道具を使った卑怯な奇襲だ。癒えない深傷をおってしまった。
人間どもをどうしてやろうか。だが傷をどうにかしなければ、このままでは弱ってしまう。
傷を癒せる何かを探しに、よろりよろりと彷徨い歩く。



おとうさんがいない、おかあさんもみあたらない。
ここはいったいどこだろう?
ひるでもやみがこいところだし、よるはまじゅうのとおぼえがきこえる。
みみなれているはずなのに、ひとりできくとひどくこわい。
ここではないどこかにいかなきゃ。あんぜんなところにいかなきゃ。



自分の力に気が付いたのは、その夢を見終わってからだ。
この大陸を古来より震撼させる、魔王を魔獣たちの存在。
それをとうとう滅ぼしうる、勇者の存在を生み出す力。
他には何もできないけれど、それが私の役目なら。
夢を見て、勇者を探そう。
ひとりでも多くに加護を……この命尽きるまで。



魔族に滅ぼされることは決してないと予言された、自分こそが勇者なのだと。そう信じて鍛錬してきた。
だが王国を沸かせたのは、従妹たる姫が夢の中で勇者に加護の力を与え、魔王討伐に向かわせた話。
俺ではないのか。ならあの予言は? 姫よ、どうか俺にも加護を。
しかし時間は限られている。加護になどすがらずに、今までやってきたことを信じて自分の道を行くしかない。
父に誇れる息子でなければ。勇者に選ばれなかったからと言って、この国を守るために戦わない理由にならない。



西で、東で、北で、それぞれ不思議な夢を見た。
遠い存在であるはずの姫が目の前に現れて、勇者になるよう言ったのだ。
元々どうにかしなければと、このままただ何もせずに被害者になるだけではいけないと感じていた。
ならば勇者に自分はなろう。ただの夢を信じるとは何事かと笑われていい、まずは姫の居る王都に向かって任を受けると告げるのだ。
姫が自分を勇者に任じた。それだけで信じる理由は充分だ。
魔獣と倒しながら進んで、各地の魔王を討伐する。そして平和を手に入れるのだ。



魔王の眷属になったばかりの、最初の数か月ほどは、確かに運命を呪ったものだ。
けれど、今となっては確かに、自分は幸福だと考える。
強大な魔力を誇り、世界に不穏な影を落とす『魔王』について囁かれた、まことしやかな噂たち。
それらは全て嘘だった。本当の魔王様を、どうか人々に知ってほしい。
少なくとも、自分の仕えている魔王は決して悪ではなかったのだ。
勇者を止めなければならない。取り返しがつかなくなる前に。

かつて冒険者だった自分も、今では酒場の立派な主人。老若男女の客たち相手に、今日も酒と料理を振舞う。
酒場という場所には常に、人が集まってくるものだ。やがて自分の前には、いつしか勇者たちがいた。
足りない栄養を食事で補い、疲れた身体を二階の宿で休めていく。
勇者たちが時折帰る場所として、彼らに需要があるならば。自分はここに在り続けよう。

憲兵として、王都を揺るがす悪は滅する。その覚悟を決めたはずだった。
特に魔王や魔獣たちが活発化している最近は、いかなる理由であろうとも危険分子を見過ごせない。
だというのに自分は今、いったい何をしているのだろう。
成り行きとはいえ、まさかこんな恐ろしい人物と僻地で野営しているなんて。

各地の魔王の座が埋まり、魔王同士で最強の座を争い合うかと思ったら。
彼らはしっかりアルデバラン国それ自体にも敵意を向けて、日々自国の領土を広げている。
普通の人々に紛れて暮らす、古の魔女たる自分にも、これは由々しき事態だった。
懸念材料も複数ある。勇者に魔王を倒させるために、自分がしなければならないことは……







「勇者が魔王を討伐する」というごくありきたりな英雄譚をシナリオとするゲーム、『Fantasma Fantasia』──通称『FF』は、「ふたりでつくるファンタジー」をコンセプトとしたRPG。
それは、魔王が姫を攫ったり、闇の魔法使いが若い勇者に稽古をつけたり、学者が獣人の仔を拾ったり、王族と神獣が共闘したり……プレイヤーが最初に選んだ「役柄」と、オンラインでつながったもうひとりのプレイヤーが同様に選んだ「役柄」の組み合わせ次第で、ストーリーが無限大に多様に変化するという、一風変わったゲームだった。

「勇者の魔王討伐譚」という基本的なシナリオ自体はあることにはあるのだが、別にプレイヤーは勇者でなくても構わないし、必ずしも魔王を討伐せねばならないわけではない。
魔王同士で戦ってもいい。行き場のない獣人の仔が、罪人の魔法使いとともに旅をしても構わない。勇者同士で面白おかしい珍道中をしてもいいし、姫と魔王の眷属が禁断の恋に落ちたり、酒場の主人が学者のフィールドワークの用心棒をしてやったり、魔女と神獣が世界に復讐しても良い。

『ごくありきたりの英雄譚を、あなただけのシナリオに』──それがFFの世界だった。



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