【序章】
都市伝説愛好会はその名の通り都市伝説を語り合い、新しくそれらしい話を作ったりするオカルト研究会のような集まりだった。
『アダム』と名乗る人物が現れるまでは。
<system>:『アダム』さんが入室しました。
<ぺぱろに>:あれ?珍しいな。新しい人かな。それともHN変えた?
<アダム>:はじめまして。都市伝説愛好会のチャットルームってここであってる?
<とっしー>:都市伝説愛好会なんてニッチなものにまだ需要があったのか……
<†漆黒の堕天使カイト†>:如何にも、それにしても始まりの男か……フッ、いい話を持ってきたんだろうね?
<アダム>:はい。通信販売限定のケーキ屋で、アップルパイを注文した人が次々と失踪しているという話です。
インターネットを中心とした技術の発達により情報化した現代。調べればなんでも分かる時代になったことにより、知らないという恐怖から開放された人間は、次第に怪談の恐怖から抜け出していった。「迷った森の中で起こった出来事」は「GPSを使えば森を出れるため作り話」とされ、「怪人」は「ただの不審者」になった。
「幽霊の正体見たり枯れ尾花」
人々は次第に道の恐怖から開放されてゆく。
筈だった。
異変はその二日後にすでに発生した。ほぼ毎日と行って良いアクセス頻度のチャットルームの常連でもある<ぺぱろに>のアクセスが途絶えた。それを皮切りに次々とメンバーのアクセスが途絶えてゆく。そしてしばらくたったある日、メールボックスにURLと短い文章が添えられただけのメールが届いてることに気付く。
『紙が与えし、第二の果実。罪と引き換えに力を与える。』
URLの先は何の変哲もない用な通販サイトだった。サイトの名前は『楽園の林檎』取り扱う商品はアップルパイのみ。そして次の瞬間、メッセージウィンドウがポップアップした。
【ご注文を行いますか? はい/YES】
そこに選択肢などなかった、まるで吸い込まれるかのように選択肢を選んでしまう。そして次の瞬間。貴方の部屋のインターホンが音を立てた。
「エデンの林檎から、お届け物です。お代は結構です。」
まだ暖かい、作りたてのアップルパイ、貴方はそれを手に取り、食べた。