◆ Complex Crisis！［NL・人数制限］

――――――悪魔界。

人間界と闇を通じて繋がっている魑魅魍魎の世界のことだ。中級以下の悪魔たちは生来アホのように血気盛んで、やたら火の玉をぶっ放したり海を叩き割ったりしながら毎日仲良く殺し合う。
しかし上級悪魔ともなると、魔界の王たる魔王に仕える一種の貴族になるらしい。
――曰く、人間界に出張して契約を取り、契約者の望みを叶え、その代償として毟りとった魂を魔界に持ち帰り、陛下に献上するとのこと。
契約者が悪魔に対し心を開けば開くほど、魂の収穫量は多くなるし質も良くなるという。

しかし近年は悪魔の存在がそこそこ人間にも知られ、以前ほど容易く契約を取り付けられなくなった。
そこで五芒星たちは、数打ちゃ当たる方式を捨てて標的を少数に絞り、契約者と親密な関係を築くことで確実かつ見返りの大きい契約を結ぶという作戦を考案し、あろうことかそのためのシェアハウスをオープンする。
……ちなみに『魔界大戦』は近年あった大量の下級悪魔らによる魔王へのクーデターなのだが、数の暴力にもかかわらず上級悪魔らがあっさり片付けた。その時活躍して名を知られるようになった新進気鋭の悪魔たちが、募集の五芒星の面々だ。

人間が自分の抱える心の痛み、例えばコンプレックスを乗り越えるのを一定段階まで支えてやり、ある程度回復したところでしかしその後もう一度その問題に直面させ、「またあの頃の自分に戻るのは嫌だ」と思わせたタイミングでそこに浸け入ることにより、より強い契約を結ばせよう。
そんな魂胆の元、人間界に集った悪魔たちはシェアハウスをオープンした。

広告には呪いをかけてある。
コンプレックスを持つ人間が自然と引き寄せられる呪いだ。
罠にかかるのはすぐだった。人間たちは続々と、悪魔たちの罠に集まってきた。

悩みを抱える人間たちの、心の声が聞こえてくる。

　「 今のままの 自分は嫌だ 」
　「 本当は もっと 」
　「 もっと 」
　「 変わりたい 」

『 ――――――呼んだかい？ 』

悪魔たちはしばらくしてから、あえて人外であることを明かした。
ただし、「天使」だと偽って。
悩める人間の心に寄り添い、時に人外だからこそ扱える魔法や超能力を使って、人間が立ち直る手助けをする善良な友を演じたのだ。
人間が心を開けば開くほど、あとで魂を手に入れやすい。だから悪魔たちは、あえてある段階までは本気で親身に手助けをした。
こちらにたっぷり依存させて、コンプレックスを乗り越えられたと錯覚させて。それでもう一度苦悩の根源を突きつけて恐怖を思いださせてやれば、彼らは悪魔の囁きを喜んで聞くだろう。悪魔はそう確信して、内心密かに笑んでいた。

――――――けれど、誤算は起こったのだ。

＊


賢くなりたい。綺麗になりたい。裕福になりたい。強くなりたい。
他人は理解出来なくても、自分にとっては切なる願いだ。
その願いが、ささやかだけれど自分にとってはとても大それている願いが、もしも本当に叶ったら。

そんな夢みたいなことが、今本当に起ころうとしているのだ。
新しい家、新しい家族。共に入居したひとたちと、元から入居していた５人。
全てが真新しくて。ハウスでの出会いのどれもが、自分にとっては未だかつてなかったくらいに価値のある尊いもので。
日々の暮らしの中で、自分が少しずつ変われているのを感じる。なりたい、けれど叶わないと思っていた自分の姿に、変わっていけているのを感じる。


――罠に絡め取られたのは、悪魔たちの方だった。
劣等感に苦悩していた人間が、やがて傷を癒して立ち直り、新しく見せはじめた一面に、悪魔達の方がむしろたまらなく魅せられていったのだ。
魂を毟りとる、というかつての目的が揺らぎそうになってしまう。
悪魔が人間に堕とされるなど、あってはならないはずなのに。


一つ屋根の下で繰り広げられる、人間たちと悪魔たちの、予想外の空模様。
人間たちは、救世主たちに危機を救われ。
悪魔たちの方はある意味、危機に陥ることになる。