グリムの語り手 2017-09-14 18:27:27 |
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Story
とある小さな村に、童話が大好きな女の子がいました。裕福で無いので1番目の兄が知っている内容を絵本にし、そして二番目の兄が読んでくれていました。彼女は絵本が大好きだったのです。
とても幼く、それでいておてんばで、いざという時は勇敢な、それでいて夢見がちな女の子でした。
彼女は沢山の童話の世界を旅する夢を見ました。
それでも。
「どうして?どうして私の夢のあかずきんは狩人さんが助けに来ないの…?」
「なんで?何故私の夢に出て来るハーメルンは村長さんに騙されて子供を無理やり崖から落とさせられているの?」
「おかしいわ、何で私の夢の中の蛙の王子様は誰にもキスをして貰えずに人々達に踏み付けられているの?」
少女は、おかしな夢ばかり見ました。
「ねえ兄さん。私ね、最近おかしな夢ばかり見るのよ。兄さんのくれた絵本と違うお話しの童話が出て来るの…」
賢く・威厳の有り、頼れる1番目の兄は言いました。
「お前は優しい子だからな。童話の人達の本当の声を聞いているのかも知れない。」
優しく、温厚な2番目の兄が言いました。
「お前ならきっと読み解けるよ。その絵本に隠された物語の本質がね。」
それからも少女はたくさんの童話の物語を夢に見ました。
「いや!!ラプンツェルが王子様に……王子様に命を奪われてしまったなんて……」
「百年眠ったいばら姫の元には王子様が現れたわ……でも、でもお后様に子供を……」
「7人の子ヤギの1人は確かに狼を倒したわ……でも、……6人はもう戻らない………」
たくさんの夢を見るうちに、彼女の夢にも変化が有りました。
その世界に入ることが出来るようになったのです。
朝に目が覚めれば寝台の上にいるものの、
夢の中の童話のみんなとお話しも出来ました。
「あかずきん!!いまからおばあさんの処に早く行って!まだいまなら間に合うわ!!」
「お願い、ハーメルン。ここから逃げて。じゃないと貴方は子供をその笛で崖から突き落とすことになるわ。」
「王子様。王子様……大丈夫よ。私が貴方のお姫様を探してあげる。」
「ラプンツェル!ロープと鋏を持ってきたわ!…あなたは早くここから逃げた方が良い。塔から。」
「いばら姫。あなたの呪いを解く方法はひとつしかないのなら…私が、あなたの傍に居て針で指を刺さないよう見守ってあげるわ。」
「ヤギさんたち、絶対に家の扉を開けてはダメよ。じゃないと……この中の1人が永遠にひとりぼっちのままなの。」
少女は童話の中のみんなを解放していきました。
そんな有る夜の夢の中でした。
「………君は、どうして絵本の世界を救おうとするんだ?」
「あなたはだれ……?」
自分と同じくらいの少年が夢に現れたのです。
「僕も絵本の世界の住人だよ。」
「なら貴方もきっと辛いことが待ち受けているのね、私が救ってあげる!」
「…いらない」
「え…どうして?」
少年は真っ直ぐと彼女の目を見つめて言います。
「これは君の夢の中の話。ここで救われたって何かが変わるわけじゃ無い。」
真っ暗闇の世界がぐらりぐにゃりとゆがみ、少年は後ろ手に持っていたらしい分厚い絵本を取り出して差し出しました。
「これは本当の絵本」
「本当の……?」
「そう。これは君の夢の中と本当の世界を繋ぐ絵本なんだ。これを開けば君は本当の絵本の世界に行くことが出来る。」
「本当の……」
「でもただし一方通行。君はこの本を開けば二度と大好きなこの村には帰れない。」
「そんなの開けないわ!」
「でもね、君のお兄さんは開いてしまった。」
「え?」
「1番目のお兄さんも、2番目のお兄さんもこの本を開けてしまったんだ。だからもうあの村には君は独りぼっち。」
「どうしてそんなこと!」
「君のお兄さんがあの童話を作ったんだよ。……君のお兄さんが目にしてきた本当の仲間や友達達の悲劇を塗り替えるために…………さあ。おいでよ。」
女の子には彼の話が分かりませんでした。
でも、女の子はお兄さんが大好きでした。
片時も離れたくなかったのです。
少女はたえきれなくなって、本を開いてしまいました。
「さあ、おいでよ!!!!」
男の子の声と共にまた世界が反転します。
絵の具を混ぜ合ったような色をした空と海が現れ、女の子を飲み込んでーーーーー。
「おかえりなさい。」
少年は不思議な挨拶を残していきました。
女の子が目を覚ました世界は驚くほど鮮やかなお城も海も見える草原の中……。
女の子の身体は不思議なことに大きくなっていました。
十歳ほどの身体は何故か十六歳ほどの少女に。
「やっと目を覚ましたかい」
「あなた……だれ?」
その笑顔には見覚えが有りました。
「記憶は無いかも知れないけれど…君の恋人だよ。六年間眠っていた君を夢魔となって助けることが出来たんだ。さあ、みんなに会いに行こう。」
少女はその時気が付いたのです。
自分の居た世界は夢で、此方が現実。
六年間の悪夢から覚めたのでした。
次のページまでお待ち下さい。
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