星月夜 2017-08-17 16:05:06 |
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エピソード1
両親は幼い子供を残して命を落としたことを悔やんだのだろうか、
少なくとも幼い俺は姉と俺を残して消えた二人の事を時に恨んで、繰り返して悲しんだ。
姉はとても聡明で、確りしなければと俺の事を第一に考えて過ごしてくれていた。
姉は中学を卒業すると工場で働き、両親亡き後面倒を見てくれた何処までも他人行儀だった親戚の家を出て小さくて鼠の出る古びたアパートで俺を育ててくれた。
俺が中学を卒業した後は一緒に働くから姉さんも少し楽にできると喜んだのに、姉さんは今の時代勉強出来なくてどうするんだと叱咤し俺の事を進学させた。
いつだって、自分の事よりも俺の事を優先してくれた。
高校を卒業し、努力の甲斐あり推薦で大学に通えることが決まり、一流企業に勤める事が決まった日。姉は、結婚したい人がいると工場で知り合った彼氏を紹介した。あの日も、とても綺麗な星月夜だった。
暫くして、ウエディングドレスに身を包んだ姉は今までに見たどの女よりも一等に綺麗で、美しくて、安い言葉では表現できない程の神聖さが有った。これからは、自分の為に幸せになってくださいと純白のドレスに包まれる姿を見てひっそりと泣いた。
エピソード2
仕事も軌道に乗り、誰にも恥じない程確りと地位と名誉を築き始めた。
二十代の終り頃に姉に子供が生まれたと教えられる。
それが、私とお前の出会いだったね。
沢山のプレゼントを買っては無駄遣いしないで貯金しなさいと姉に叱られたけれど、それでもまだ、姉には感謝をしてもしきれない。それに、買った洋服を着た写真を見せられると写真から伝わるお前の成長がとても嬉しかったんだ。
エピソード3
30代になったばかりのあの日、姉が末期の癌だと宣告される。
若いせいで広まるのが早く、完治は難しいだろうと大凡の余命まで。
例に漏れず、その余命通りに姉は愛しい旦那と子を置いて命を全うしてしまった。
変われるならば、変わりたいと、悔し泣きをしたのはあの日が最後のこと。
エピソード4
姉がいなくなった以上、旦那とも子供とも交流することが出来ずに一年が経過した頃、風の噂で男が再婚したと知る。早すぎるだとか、不謹慎だとか、思う事はあったが子供の幸せを思えば母親がいる方が安心なのかもしれないと言い聞かせた。
そこから二年、
二年の経過があった頃、姉の知り合いから電話がかかり。
子供が虐待を受けていると知らされる。
育児放棄、暴力、異母からも実父からも。
姉の保険金を再婚相手に貢いで豪遊していることも。
その電話を受け取った、その日の内に会いに生き
すっかり見違えるほどやせ細り穴の開いた服を着た子供を見たときに気付けなかったことを心から後悔した。写真の中の子どもは何時だって綺麗な服を着て、ふっくらと柔らかい頬を笑顔で綻ばせていたから。
相対する様にでっぷりとした贅肉を揺らし、全身を高級ブランドで固める男と異母を見て文句を言わせずその日の内に子供を引き取った。
エピソード5
サプリメントを取り扱う会社の社長まで上り詰めた私には、可愛い子供がいる。
母親の姓を捨てたくないと言う事で苗字こそ違うが、私を守ってくれた姉の大事な忘れ形見だ。
気丈で、負けん気が強くて、強引で、お喋りで、悪戯好きで、面倒見が良くて、豪快で、…
可愛いお前を見ると、ふとした時に姉の面影を感じるんだ。
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