君が居た夏は、遠い夢の中。
空に消えてった、花火。
松野家は夏には山にも海にも川にも行く。
これは子供の頃からの恒例行事だ。
オレはいつでもその中で胸を弾ませていて。
一人だけをたまに見てしまう。
赤塚区では夏の終わりになると毎年大きなお祭りがある。オレたちの中でもビッグイベントだ。
もうこんなことを信じている人なんて、同い年の子には居ないかも知れないけれど。
子供の頃からの言い伝えがある。
お祭りの日に、二人で遊んだ後に花火を見ながら神社の奥にある山でキスをすると永遠に二人は結ばれる。
中学生の頃のオレと一松は仲が良かった。
というのも、オレが目新しく見付けてきた服装やアクセサリーに素直に彼が賛同してくれていたのがきっかけ。ひかれ会うように仲良くなったオレたちは、兄弟内でお祭りを回るペアを決める籤でいかさまをして、一緒にまわった。
近くで打ち上げられている花火の音と胸の音がひどく五月蠅くて。一松は金魚を飼いたがったけどすくうのが下手で、浴衣の袖をぬらしていてかわいかった。花火が始まると、一松が握っているオレが取った金魚の入ったビニールに映った花火の光がキラキラしてて。お礼だって俺の好きなわたがしを買ってくれた。嬉しくて手を握りたいと思ったけれど、少し向こうにクラスメイトの子達を見付けて、オレは気恥ずかしくて少しだけ離れて歩いた。
糸引き籤で当てた線香花火。お祭りの後に二人で兄弟にも秘密で神社の境内の奥でやった。
何度も言おうと思っていたけれど、好きだって事が言えなかった。
空に消えていった線香花火にまた火が灯る。
れすきん。