カイル・ゲルテナ 2017-06-03 10:30:14 |
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▼当館のパンフレット【表】
19歳の青年カイルは幼いころに両親を亡くし、最後の肉親だった祖父亡き後は、祖父の知人だという老婆に引き取られて育てられた。
老婆は本当の家族のように愛情を注いでくれたが、カイルに何度も言い聞かせていた奇妙な約束ごとがある。
“おじいさんの美術館には、何があっても行かないで。絶対に行かないで!”
しかしカイルの祖父は、マイナーだがカルト的人気を誇る芸術家、「ワイズ・ゲルテナ」その人だ。
自分のルーツを知るためにも、そしてゲルテナの孫として、カイルは祖父の作品群が展示された美術館を養母に内緒で観に来てしまう。
ところが、作品リストにないはずの『絵空事の世界』という巨大な絵を見た瞬間から、奇妙な出来事が起こり始めた。
本当に鳴く猫の絵や咳をする男の絵、キャンバスから飛び出す赤い果実、窓を叩く不穏な影。
もう一度『絵空事の世界』を見ると、そこには先ほどまではなかった青い文字が踊っている。
“いらっしゃい ゲルテナ”
“秘密の場所 教えてあげる”
そして最大の代表作、『深海の世』に飛び込むと──そこには、ゲルテナの作品群が息づく、美しくも恐ろしい世界が広がっていた。
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そしてカイルと同じように、もうひとり、ゲルテナの世界に否応なく引きずり込まれた者がいた。
その美しい少女もまた、『深海の世』から地下の奇妙な世界に足を踏み入れ、そこで不思議な文言を目にしたのだ。
“その薔薇朽ちるとき”
“貴方も朽ち果てる”
“白い薔薇”を得た少女は、襲いかかる『無個性』や『赤い服の女』からその賢さを武器に逃げながら、やがて【赤の間】に迷い込む。
するとそこには、床に倒れて気を失っているらしい、ひとりの見知らぬ青年の姿。
そばに散っている黒い花びらから状況を察した少女は、『青い服の女』の魔の手を逃れて奥の部屋から“黒い薔薇”を見つけ出すと、花瓶にさして活き返らせたそれを青年に手渡した。
「?」
「苦しく、なくなった……?」
「!? ッ、誰だお前は!
お前もまさか──」
『…………』
「…………!」
「お前、美術館にいた奴じゃ……」
「……薔薇を取り返してくれたのか」
「…………」
「……悪かった」
「俺はカイルだ。お前は?」
『 』
「……そうか」
「ガキひとりじゃ危ないからな」
「おい、俺と一緒にここを出るぞ」
──かくして、ゲルテナの孫である青年と、賢さを武器とする少女の、美術館からの脱出が始まる。
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