文芸部という名の秘密組織の一員 2017-04-16 17:24:30 |
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向日葵
「ほら、笑って?」
泣きそうなときは、いつもそう言って笑顔を見せてくれたよね。自分の方がずっと大変だったのに。顔に出さずに頑張ってたの、本当に偉いと思う。俺も強くなれたらいいなぁ。......って言ったら、笑う?
とある、夏の日。元々病弱だった彼女の具合が急に悪くなって病院に行くと、余命宣告をされてしまった。残された時間は、あと1年。あまりにも酷くて、何で彼女なんだ、俺が代わってあげられたらって思った。何度も夢なら早く覚めてくれって、願った。でも、彼女は前向きだった。一番辛いのに、いつも笑顔で。周りを明るく照らしてくれてた。だから、俺も一生懸命、できる限り支えてあげたんだ。
一緒に登校して、一緒に帰って。わざわざ自転車を押して歩いたのも、寄り道してフルーツパフェを食べたのも。授業での調べものとかの些細なことも、すべて思い出せる。毎日が充実していて、" 最期 "のことを忘れてた。それくらい、楽しかったんだ。
「奈央......逝くな。俺は、俺はッ......!!」
「大袈裟だよ。それに......泣かないでよ。これは運命なんだからさ」
涙が溢れて止まらない。声も掠れてくる。それでも、俺は名前を呼び続けた。
「ねぇ、笑って? 笑顔の方が似合うよ」
涙を拭う細い指が、壊れそうな華奢な体が、愛しくて。思わずぎゅっと抱き締めるこのまま時が止まってしまえばいいのに。そんな願いが叶うはずもなく、静かに亡くなっていった。その日は涙が枯れるまで泣いた。心に穴が空いたように何も考えられなくなって、凄く苦しかった。
それから何ヵ月も経った今でも、当然心の傷は癒えないままだ。ちゃんと良い彼氏になれてただろうか? 彼女を楽しませることが出来てただろうか? そんなことを思うことがある。でも、夏が来るとその不安は何処かに消えていく。向日葵を見る度に、彼女が笑いかけてくれている気がするから。
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