文芸部という名の秘密組織の一員 2017-04-16 17:24:30 |
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chain girl
「もう、何もかも忘れてしまいたい」
思わずそう呟くも、応答する声はない。当たり前だ。此処は自分の部屋。一人っ子な上両親は仕事でいない。誰かが応答してきたらそれこそ自分がおかしくなったか怪奇現象かの二択になる。
「はあ......」
溜め息を漏らす。誰もいないのだから私は自由だ。聞かれる心配もないし、迷惑をかける心配もない。ああ、毎日こんな日が続いたらいいのに______。
「おはよう」
騒がしい教室に入った瞬間、すべての動きが止まる。すべての視線が此方に集まる。これだから嫌だ。視線から逃げるように席に着くと、それと同時に担任が入ってきた。
「おはようございます」
担任の声でクラスが纏まる。先程までとは大違い。ピリッとした緊張感が走り、しんと静まっている。そこにふざけたような雰囲気は微塵も感じられない。
「今日は修学旅行の班決めをします」
"やったー!"、"一緒になろうね!"
嬉しそうにするクラスメイト達だが、私の心はどんどん沈んでいく。窓に目をやると、空が暗くなってきているのがわかる。もうすぐ雨が降るんだろう。......今の私をそのまま写したみたいだ。ぼんやりと考えているうちに、一限目の開始を告げるチャイムが鳴った。
「異論はありませんね?」
好きな者同士くっつくことが許された修学旅行班。もちろん、私には仲の良い子などいない為、適当に混ざることになった。結果は、簡潔に言って最悪だ。見事に嫌いな面子が揃っている。これなら行かない方がマシだと断言できる。
「どこ行くー?」
「縁結びのがあるとこ!」
三年で中学最後だからって、こんなに受かれている奴等と一緒に過ごすことになるとは。嫌な思い出しか出来ないじゃないか。
「おい、ぼーっとしてんなよ」
「いっ......ごめんなさい」
髪を引っ張られる。何で何もしてないのに怒られなきゃいけないの?いや、話し合いに参加してないのが悪いといえばそれまでだ。でも、どうせ参加したって意見は無視されるんでしょう?なら関係ないじゃない。
「おい阿呆 」
「馬鹿、聞いてんのか」
「黙れよ」
罵詈雑言は止まらない。悪いことをしたつもりはないのに。
事の発端は二年の三学期まで遡る。
「あのさ。話したいことあるから、放課後校舎裏まで来てくれないかな?」
告白だ。明らかに告白しようとしている。恋に疎い私でもさすがにわかる。
「好きです」
告げられた言葉は予想通りのものだったにも関わらず、現実に思えず戸惑ってしまう。それに、相手はあまり話した事のない人だ。格好良くて、優しくて、成績優秀。釣り合う訳がない。迷わず出した答えは......。
「ごめんなさい」
それを見ていた多数の人から責められ、罵られ、今に至る。
修学旅行、当日。乗り気じゃなかったものの、親に休むことを許されずに来てしまった。一日目と二日目は集団で行動するから問題はないだろう。バスの座席は皆が嫌がる職員の真後ろ。これなら何かされる心配もない。
何事もなく一日目が終わると、ホテルに到着してしまった。三日目の班行動以上に気が重い。同室の二人は告白してきたあの人のことが好きだから。見てすぐわかるくらいには、恨まれている。
「お風呂、先入るね」
「あ、このテレビ面白い」
普通に談笑していると、突然一人が真剣な表情で此方を見てくる。思わず身構えると、やっぱりきた。
「何であの人の告白断った訳?まじ意味不明なんだけど」
「何の取り柄もないくせに」
もう言われっぱなしでいるのは懲り懲りだ。今まで我慢してきたけれど、限界がきたらしい。修学旅行。現在地、京都。少しくらい自分を変えてもいいのかもしれない。
「......じゃあ、付き合えば良かったの? 付き合えば、それで満足したの? そんなことないよね。付き合ったら付き合ったで、何で付き合うんだって怒るんでしょう? なら、このままでいいじゃない」
思っていたことをぶつけると、反論してくるとは思っていなかったようで絶句している。
「あれ、何で何も言わないの? 先に文句を言ってきたくせに。あの人が自分のものにならないからって八つ当たりしてきてたんだよね? 私知ってるよ? 陰で私のことを悪く言っていることも。都合のいいように人をこき使おうとしてる最低なメンバーがうちの班だってことも」
「黙れよ!」
「黙らないよ。言いたいことがあるならちゃんと言ってよ」
もう、絶対に皆の言いなりになんてならない。私は私のやりたいことを、私のやりたいようにやる。邪魔なんて、させない。今は今しかないのだから。
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