迷子な主人公さん 2017-03-26 19:17:44 |
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ハァ?…───迷い込んだのか。
( 来たのに帰れない?路地の先って言ったって壁があるし向こうはまた街が広がるだけだ、冗談だろうと素っ頓狂な声を上げてしまう。しかしそれも直ぐに、少女の混乱した様子を目の当たりにして冗談じゃないと理解出来て。そんな少女もついには泣いてしまったようで、月明かりに照らされ雫が地に落ちるのが見えた。──どうしたものか。気が遠くなりそうな程昔に、極稀にこういう事があるのだと聞いた事がある。しかし遭遇したのは初めて、どうしたら良いのか分からず目を覆うように額に手を当てて纏まらない考えを巡らせて…嗚呼面倒だ。いっそ知らん振りして帰ろう。そう決心して覆っていた手を退けた瞬間、少女が声を張り上げるものだからそれはもうギョッとして、危うく屋根から落ちそうになるのを足に力を込めてグッと踏ん張る。「 う、…ッるせェな、オイ。帰り方も分からないならいつ帰れる日が来るんだよ。こんな良く分からん人の子の面倒なんざ…── 」真っ平御免だと勢いのまま言うつもりだったが、はた、と先程の少女の言葉を頭の中で思い返し。散らかった家、探すのに苦労する商品の在庫の山……こき使うのに都合が良いかもしれない、使えなければ追い出せば良い。にやり、と口角を吊り上げては「 なァ。…サクラ、とか言ったっけな。何でもするって言ったよな、その言葉忘れんなよ…? 」少女の言葉を待たずに屋根から腕を伸ばし、ヒョイ、と腰元を掬い上げると黒翼を大きく羽ばたかせ、空へ一気に舞い上がる。「 ……人間クセェな。 」ぐっと近くなった距離に鼻が種族の違いを嗅ぎ取れば、眉顰めながら文句をぽつりと漏らしつつ、呉服屋を営む我が家の裏口に降り立ち、戸を開ける。一階は店、二階は住居といった造りの家は裏口から入ると風呂場と炊事場、その奥にお店があり。売物が雑多に並べられた棚から浴衣のような寝間着を引き摺り出すと、ぽいっと少女へ放り投げ「 其処の扉を入ると風呂場がある。……取り敢えずだな、ちょっと人間クセェから湯浴みして来い。二階に上がってすぐの部屋に居るから、終わったら来い。 」眉を顰めたまま言うと床に転がる置物を足で退かしつつ、二階への階段を上がり部屋へと消え。 )
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