サイノカミ 2017-03-23 21:54:40 |
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まァま、遠路遥々よくぞいらっしゃいました。
アタシは送り雀。今宵坊っちゃん嬢ちゃんの案内を賜りました、こうして常世の皆々様にこき使われとるしがない下男に御座います。
――えェそう、此処は「常世」です。
坊ちゃん嬢ちゃんの住まうこの世と死人の住まうあの世のあわい。生者でも死者でもない者共が住まう国。
神域とも言いますがね、……簡単に言やァ、現世から忘れられたものが集う侘しい国ってとこでしょうか。
ま、野暮ったい長話なんざやりたかねェし聞きたかねェでしょ。
そこへ札を立てといたんでね、ソッチを穴が空くまでよォく御覧になってくださいよ。
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【背景】
明治より御国へ花咲くハイカラ文明。濁流の如き科学と革命の洪水に古い伝承や信仰は黴臭い過去の迷信として人の営みから押し流され、幾多もの山川はえぐられ埋められ殺された。
そこで困ったのは自然や信仰を依代とする土着の神々。住家もなく崇めてくれる者もなく、もはや現世に行き場のなくなった神々は存在の消滅を恐れ、永久不変の神域「常世」を作りそこへと逃げこむ。
しかし神とは人無しでは存在しえない脆弱なもの。
そこで彼らは現世から人の子供をさらい、自らの側に置いて世話をさせるようになった。その行いが人々の間で「神隠し」と嘆かれていることも知らず――。
【物語】
貴方はある日突然神隠しにあい常世へと連れてこられた子供。
ここでは「カンナギ」と呼ばれ、神様に仕え世話をする大切な存在――いわば巫女として丁重に扱われる。
仕えると言っても神様がたとお喋りをしたり遊んだり、時には下男と戯れてみたりその暮らしは御心のままに自由なもの。神様がたの願いや命令は叱られたくなければ優先すべきだが彼らにも強制する権利はない。
女児は14歳、男児は15歳になればお役目を終え元いた場所へ帰してもらえる。その際には褒美として富や才能、神通力など望むがまま幸を与えられるため一生暮らしには困らないとか。
ただし一つだけ、神に魅入られた子供は永遠にこの常世へと縛り付けられ二度と現世には帰れない。
【常世】
まず迷い子を迎えるのは幾十と連なる朱塗りの鳥居。
くぐった先には一面の彼岸花に染まる河原と深い深い川があり、赤い橋を渡った向こう岸が常世。この橋は橋守りによって迷い子と客を迎える時だけ架けられるため、一度渡ってしまえば帰りたくとも帰れない。
町並みはさ迷う鬼火や異形のものを覗けば古きよき日本のそれ。アッチの角を曲がれば大正、コッチの角を曲がれば江戸と失われたふるさとの景色がちぐはぐに並ぶ。
朝も夜も神と同じく住家にあぶれてやってきたモノノケ達で賑やかしく、彼らが営む不思議な店々はカンナギや神の心を楽しませる常世の花。
町中にもぽつりぽつりと大小様々なる鳥居が並び、ひとつくぐればあそこの薮へ。ふたつくぐればどこぞの細道へとあっちこっちへ奇妙に繋がっているため独り歩きはご用心。
その内一つをひょいとくぐればそこはもう神様がたの住まうお屋敷「マヨヒガ」、神と貴方が一つ屋根の下暮らすこととなる家。
■
――つまるところ、大人になるまで神さんがたと遊んでやるなり身の回りの世話してやるなり付き合ってやってくださいよって御話です。
さらってきた身で言うことじゃァありませんがね……アレです、気負わずのんびり常世で遊んで行きましょうや。いずれはキチンと帰れんですから、多分。
後の説明は犬ッコロが致します、ちィとばかしそのまんまでお待ちくださいよ。勝手に動いちゃァ酷えバチが当たりますんでね。
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