悲しき鬼 2017-02-12 20:26:59 |
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(庭へと足を向ける背中へ、かけられた言葉に小さな違和感を感じはしたが、瞬き一つと共に飲み込んで。花を傷めない様、指先で優しく触れてみたり、顔を近づけその香りを楽しんだりと。季節に咲く花に加えて、見た事もない花を興味深げに眺めながら振り向きざま、縁側に座る彼へと視線を向けてみる。自分が花に夢中になっている間にか、気づかぬ内に書物を手に、読みふける彼の表情が、冷たく刺す様なものに変わっている事に気付く。きっと、あのひとは人間じゃない――どこか確信めいた気持ちと同時に、たとえ束の間、これが最後の夢になったとしても、悪くない一生と思える気もして。不意に書物から視線を外した彼がこちらを見るならば、きっと目があってしまうのだろう。柔らかく微笑んで、軽く手など振ってみようか。)……あの花、おいしかったな。(ぽつり、小さく零した呟きは誰にも気づかれず、空に溶けた事だろう。空が赤らむよりも少し前に、縁側へと戻れば満足げな面持ちで、彼へと近づいて。)
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