とある政府役人 2016-12-14 22:21:37 |
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…………。
(何処か他人事のようにさえ聞こえる相手の声にろくに反応もせず、手にしていた燭台切光忠が回収されたこと、相手が自分の近くにいたことさえも気付かないままで。彼がこの部屋から去ったことにようやく気付いたのは襖が閉まる音が聞こえてからで、自分の為にと差し出されたまま畳の上に置かれている手拭いへと視線を向ける。口端を伝って衣服に落ちては赤い染みを作る血をそれで拭おうかと一瞬考えるも、すぐにその考えは霧散して消え、口の中で広がり続ける鉄の味を呑み込む。「……痛い」彼に掛けられた気遣いの言葉をに対して遅すぎる返事をするかのように呟いたそれは、じくじくと痛む口内の傷のことでもあり、同じように切り刻まれた己の心も指していて。いっそ助けを求める事が出来たらどれだけ楽だろうか。しかし、自分は欲のために『彼自身』を含む多くの刀剣達を喰らい過ぎた。今更そんな事が許されるはずも無い。自分に向けられた彼の笑顔を脳裏に思い浮かべては、一刻も早く審神者が、あるいは彼が、自分のことを見捨てるようにと願い、自らの本体を抱きかかえたまま小さく蹲って)
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