風人 2016-11-02 05:15:58 |
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鎌形は、黒いサングラスで目元を隠していた。そのいでたちが無機質な表情に凄みを加えていた。ソファに寝ころんでいた比嘉は、エロ雑誌から目をそらさず尋ねる。
「儀式は済んだんでっか?」
「ああ、済んだよ」
「おめでとはん。これで冬の人事でいよいよ副部長でんな」
鎌形は口角をかすかに上げる。これが鎌形の最上級の笑顔であることを、千代田は理解していた。
「比嘉、お前には祝ってもらえるとは思っていたよ。お前の故郷へ異動だから嬉しいだろう。来週から浪速地検特捜部だ。一緒に比嘉の故郷に凱旋しよう」
鎌形の声に、雑誌をめくっていた比嘉の手が止まる。身体を跳ね起こした。
「ワテの故郷に凱旋して、どないするっちゅうんです。鎌形さんの故郷はみちのくやないですか」
「それは違う。私の故郷は日本だよ」
千代田はかつて故郷談義に花を咲かせた時に、鎌形が言った言葉を思い出す。
----我々検事の仕事は、日本に正義の花を咲かせることだ。だから故郷は日本だ。そう思えば日本で起こる犯罪はすべて、故郷を破壊する憎むべき意思に思える。
ナニワ・モンスター/鎌形雅史、比嘉徹之、千代田悠也/海堂尊
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