赤い糸 2016-10-16 23:21:09 |
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>> チョロ松
俺は仕事に縛られる人生なんて御免、だからな…。ん?もう痛みはないのか?また痛くなったらすぐ言うんだぞ?( じとりと、相手の瞳が細められる気配に素早く目を逸らす。そう、全ては今のぬるま湯生活を変えたくないから。六人が全員ニートで、毎日みんなで銭湯に行って。たまにフライパンやバットを投げ付けられることだってあるけれど、兄弟六人楽しくやれている、うん。少なくとも己は楽しく過ごせて居ると思っている。とにかく、現状を維持したいのだ。それには就職なんてもっての他!彼のことは全力で応援している。寧ろ彼を採用しない企業に少なからず憤りを感じているくらいだ。彼は少し自意識がライジングしているだけで、真面目で人と真剣に向き合える自慢の弟だ。かといってカチコチに固すぎず、逆境にだって立ち向かえる芯の強さだってある筈だ。そう言葉を並べようとしたとき、彼から「もう痛くない」と優しく紡がれ言葉を飲み込む。同時に、心底ほっとして胸を撫で下ろし、呼応するように凛々しい眉も垂れ下げて。やはり己は弟に弱い。相手の体を気にしながらも、どんどんと焼肉屋へと近づく。まだ早い時間だからか入った店内は比較的空いていて、店奥のテーブル席へと案内されればメニューを開きながら向かいの彼へ、ニパリ )今日は俺の奢りだし、何でも好きなもの頼んでいいゾッ!
>> 一松
…でも、でもな一松。それって俺じゃなくてもいいんじゃないのか?( じ、と、弟を見詰めてしまう。いつの間にか腕の中の猫を撫でるのも忘れて、ただじっと弟を見詰める。相手が言うように、あの猫に似た唯一の兄は寂しがり屋だ、それは兄本人の言動からも読み取れる。けれどその寂しさの矛先は、特別自分一人に向けられるものではない。暴君気質の兄は、自分が暇ならば手近に居る弟が何松であろうと構いに行く筈。その中で唯一、温かな感情を抱いて「構って」と言葉を紡いでいる相手は、自分ではない。その存在になりたくてなりたくて堪らないのに、己ではどう足掻いたって成り変われない。兄の特別でないのなら、兄から向けられる優しさは全て兄弟としての感情だ。そんなの欲しくない。己は欲深で傲慢な男だから、それだけでは足りない。足りなくなってしまった。そこまで考え、起き上がった弟にはっと我に返れば、数秒遅れてその言葉の意味を反芻していく。そして、意味を理解するのとほぼ同時にそっと彼の手首を掴み、再びじっと紫色の瞳を覗き込んで。彼を、一松を必要ないなんて思ったことなんてない。寧ろ部屋の中に五匹しかいない猫はどこか不完全で気持ちが悪くて、あと一匹。眠そうで動きが気怠げで、それでいて気遣い上手で人の感情に誰よりも敏感に気付いてくれるような猫。その猫を探すため、相手の瞳を真っ直ぐに見詰めたまま言葉を紡いで )……なあ一松。俺もその路地裏着いて行ってもいいか?
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