岬 2016-10-10 17:43:47 |
通報 |
〝 ── 〟さん、朧月が見えます。…綺麗ですね。
( 夜の静けさに包まれたとある港にて、哀愁漂う背をした少女は水面に映る霞んだ月から視線を外さない。手元にあるのは出撃のみならず日常の大半までもを共にした相棒の矢。波の音に身を委ねながら其の矢の箆の辺りに指を滑らせると、そのまま幾度も幾度も愛おしそうな指遣いで同所を撫で。ふとその手を止めて面を上げる。目前には油断しようものなら飲み込まれてしまうのではと思わせる程に大きく立派な望月が見え。霞んで光の薄い今宵の月は見事なものではあるも、どこか儚げで悲しいものを感じさせる。 )
出来ることなら貴女と──、
( 己から出かけた言葉にはっとして口許を押さえる。もう彼女はいない。それは最期の瞬間を唯一見ていた少女が一番理解していることではないか。今までに経験したことの無い理解不能な感情から嗚咽が出る。荒くなる呼吸の合間に上擦った声で彼女の名を何度か呼ぶも、虚しく其れ等全ては波の音に消し去られて )
トピック検索 |