焼きソーば 2016-09-12 03:19:13 ID:f9e4b1cb2 |
通報 |
突然だが、僕【有田 浩介】が通う中学校には【授業開始二分前黙想】というものがある。これは椅子に座り、目を閉じて精神を統一させ、次に受ける授業へ心を切り替えたり、集中するというものだ。
まぁ、そんなこと言ってても基本的に男子はゲームの内容や休日の友達との過ごし方を考えていたり、女子はLINE等の会話を思い出したりしてるだけなのであまり意味がなかったりするがそれは置いて置いて。
んで、そんな黙想中で目をつむっている僕の目の前に広がっているのは真っ暗な景色だけのはずなのだが……
「ここは……どこなんだ?」
そう、問題はそこ。気付けば目の前に広がるのは青々とした草原と、のんびりと穏やかな雰囲気をした村。ゆっくりと流れる綺麗な川に、雲一つない青空。直前までいた少し古いイメージがある教室は……どこにもない。
「本当にここ……どこ? 明らかに日本じゃない……よね」
……次の授業は理科だったはずだ。
先生がいつも黙想中に言う変な言葉が今頃頭の中に浮かんでくる。
確か先生、『人生の荒波を乗り越えるには腰骨を立てて……』とか言ってたなぁ。
すごくどうでもいい話だね、うん。
うん、まずはよく考えよう。まず多分夢ではないはずだ。二分間の黙想中は流石に寝るには短すぎる。しかも風の感触とかもリアルすぎる。そう考えると、今の僕の状態はよくラノベとかに出てくる【異世界転移】とか【異世界転生】系なのだろうか。
ここまでくると驚くとかの次元じゃない。小説の主人公は「えぇぇぇっ!?」とかよく言ってるけど、はっきり言って、驚くというより唖然……呆然と立ち尽くしている感じ。
ん?そういや思ったけど、 転成系なら死ななきゃ新しい「生」にはならないよね? でも死んだ記憶はないんだけどなぁ……って、あ。
そういや黙想してる時「わぁ」とか「きゃー」とか悲鳴が聞こえた気がする。その時に何かあったのだろうか。うん、自分は本当に危機察知能力が皆無だからね。まじであり得るから怖い。
「えー…………まじか…………死んだってこと?」
信じたくない。いや、だってさ。ラノベは自分と全く関係がない二次元の主人公が頑張るのだから面白いのであって、運動神経とか悪くて度胸もない自分が体験するなんてもってのほかだ。
とりあえず自分の体の確認をしよう。顔はどうしようもないからまずは服とか確かめよう。うん。
そう思ってゆっくりと下を見ると……
「えぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
自分が着ていたのは、何処かの物語に出てくるようなお姫様がきているような服だった。
分かる? あの白いヤツ。無駄にヒラヒラみたいなのがついてる白いドレスっぽいやつ。
そういえば、さっきからなんか声が高い気がする……
え、いやな予感しかしないんすけど。
驚いて横を見た時、水面に自分の姿が映った。
恐る恐るそれを見ると顔は……
「っな!?」
完全にラノベのヒロイン顔でした……
気になったので、もうちょっと近くで見て見ることに。
ねぇ、ちょっと。
スラっとした体型に、腰あたりまで伸びた美しい白銀の髪。大きな黄色の瞳で、白色の肌。客観的に見ればそれなりに魅力的なんじゃないだろうかという胸。
そしてこの人物を、あろうことか僕は知っている。正確に言えば、キャラクター。このキャラクターは、僕が使用したとあるゲームのキャラクターなのだ。名前は【カリン・イース】
それを思い浮かべた瞬間、僕の体は崩れ落ちた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「…………んー…………ん……って、うわっ!?」
「おぉっ! 起きたかねっ!?」
目の前にはボロい天井……と見知らぬおばさん。っち、某有名アニメと同じ展開とはいかなかったか。
どうやら今はベットのようなものの上に寝かされているようだ。
「…………えーっと、ここは……」
「大丈夫っ!? 怪我とかないっ!? 記憶喪失とかじゃないっ!?」
「いや、えーっと、あのぅ……」
女性は手を慌てて振り、青ざめた顔で大きな声をあげる。
「あっ! し、失礼しました! 怪我はありませんでしょうか! 突然貴女様が外で倒れておりまして……」
えーっと……なんだこの人。突然喋り方が変わったぞ?
倒れてたってことは、気絶してたってことか……あまりのショックに……
考えてみてくれる?突然自分が性別変わっていた……なんてことが起きたらどうなるか。私は気絶だったが……
「あー……うん、はい。怪我はないです……はい」
「は、はいっ!」
よほど緊張していたのだろうか、おばさんは顔にびっしりと汗を浮かべている。
「ちょっとお尋ねしてもよろしいでしょうか?」
僕はそういうとベットから起き上がり、おばさんに話を聞くことにした。
「……ということは、ここは【王国第二十三開拓村】であり王国の領地なのですね」
「はい、そうです。ここからずっと北に行けば、王都があるそうです」
あれからしばらくずっと話を聞いていたが、その内容はかなり驚くものだった。
まずここは【アルファス王国】の辺境の村であるということや、魔法やモンスターの存在。それに地理的なことに、世界共通のお金の単位や人種についてだ。
流石に魔法やモンスターについての存在はこの世界では当たり前だったようで少し怪しまれたが、とりあえず問題はナッシング。
「と、ところで貴女様は……」
話を聞いていてわかったが、どうやらこのおばさん、僕を貴族か王族の家系の娘だと思ったみたいだ。
うんまぁ、仕方ない気もする。こんなウエディングドレスみたいなのきた人を待ちで見たら、コスプレかどっかのお姫様か?としか思えないもん。
「ぼ__私は旅人ですよ。ただの……ね」
危な。一瞬ぼくって言いそうになったし。僕っこキャラではないんだ……。まぁ、そう言ってかっこよく部屋から出ようと思ったのだが、一つ気付いた。
(泊まる場所とかないじゃん)
何時の間にか時は夕暮れ。もう異世界にきちゃったんだから諦めて頑張ろう精神でとりあえず王都を目指すつもりだったのだが、流石にモンスターがいる世界は危なすぎる。未だ自分の能力的なのも分かってないわけだし。
しかたない、おばさんに言ってどうにかしてもらおう。そう思った時だった。
「メルさんー。メルさんーって、ありゃ?」
眼鏡をかけた、スーツっぽい姿で高身長な黒髪の女の人が、家の前で私を見て立ち止まった。
「…………魔力量は多いわね。顔は貴族一覧には載ってない新顔ね……」
突然何かを呟き始める目の前のいかにも営業マン風の女の人っ!
その人はじっと私を見て……
「よしっ! 学園に入れるか!」
「へ?」
その言葉から、私の波乱の日々が始まった。
トピック検索 |