four 2016-08-03 15:20:21 |
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二十三歳の誕生日、冬と春のあいだ。
去年まで付き合っていた年上の彼と行くはずだった喫茶店を、ひとりで訪れていた。
その店は、山手線沿いにある駅の、繁華街の脇道にある。すぐ横で飲み会帰りの学生やサラリーマンがきゃあきゃあと賑わっている中、ぽつんと空間を切り取るようにして建っていた。
たくさんのお洒落な喫茶店やバーを得意げに語る彼は、しかし私をそこへ連れて行ってはくれなかった。大学を卒業したら、いろんなところへ行こう。そんな言葉を会話の端々に残して、彼はもうひとりの彼女のところへ行ってしまった。
正確には、そちらが本命で、私の方が“もうひとりの彼女”だったのだけれど。
卒業する間際に別れて、そのことが発覚する頃には、私は社会人として新しい日々をめまぐるしく過ごしていた。
ある意味、ちょうどいいタイミングだったのかもしれない。結局ふたりの未来には別れしかなかったのだから、それは早い方がいい。それに、忙しさのおかげで悲しむ時間もなく、怒りや虚しさは風化していった。
ふたりで話していた喫茶店を選んだのは、もしかしたら会えるかもしれないとか、そんな少女のような考えではなくて、ふと頭に浮かんできたからだ。
店へ入ると、喫煙と禁煙を選ぶように言われた。私が嫌味をいうのを困ったように笑いながら流して煙草を吸う彼の指先を思い浮かべながら、禁煙席を選んだ。
案内される直前、左手にカウンター席があるのに気がついた。その中には、珈琲を作る人、カップを磨く人が居て、壁には様々な柄のカップやソーサーがランダムに並べられている。
「すみません、カウンターでも良いですか」
「あちらは喫煙席になりますが……」
控えめな女性店員の言葉に首を振ると、くるりと踵を返してそちらに案内してくれた。
「そこ、荷物置いてください」
席へついてすぐ、女性と入れ替わりにカウンター内の店員が声をかけてきた。カップを磨いたまま、視線で右端の席を指す。
「ありがとうございます」
そこへ荷物とコートを置いて、隣の椅子に座ると、目の前に銅製のシュガーポットがあった。よく磨かれたそれは、胸元にさげている蝶のネックレスを僅かに映す。
その横に立ててあるメニュー表を開くと、綺麗な字で書かれた商品名と、いくつかの写真が目に入った。
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さっきと同じものがテーマになった感じ。さっきのが終わった後の新しい恋?
モデルになった喫茶店があるんだけど、最近行ってないなぁ。
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