都々 2016-06-18 21:21:15 |
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( 大学からの帰り道、その光景を見た瞬間思わず足を止めた。見間違いかと思い遠慮も何もなくまじまじと見つめたが、やはり自分の目と記憶は間違っていないらしい。視線の先には淡い水色の傘、そしてそれをさしている一人の女。同じ教室の席に座っている姿を何度か見かけたことがある彼女は名前こそ知らないものの、幾つかの講義で被るということは同級生なのだろう。複数人で固まりたがる多くの女性たちとは違い特定の友人といるところを見たことがなく、それが逆に目を引く要因になっていた。彼女と帰り道に遭遇したのはこれが初めてだったが、それだけのことで足を止めたわけではない。今日の講義では彼女の姿を一度も見かけなかった。彼女の姿を目にしたのは今日の朝、大学へ向かう途中のこの道で、だ。まさかとは思うが朝からずっとあの場所にいたのだろうか。だとすれば軽く3時間以上は雨の下で過ごしていたことになる。傘をさしているとはいえ今日の気温は昨日までと比べて随分と低く、足元や服の濡れ具合を見る限り身体も冷えているであろうことが容易に予想できた。それでもすぐに駆け寄ることが出来なかったのは、傘をさし静かに空を見上げている彼女の姿に見惚れてしまったからに他ならない。その風景が彼女のために用意されたかのような錯覚すら覚える。ばしゃり。すぐ横を車が通り越した瞬間、思い切り服に水飛沫がかかる。放心していた時間が一瞬だったのかそれとも数分だったのかは定かではないが、一気に現実に引き戻されると同時に足は自然と動き出していた。彼女の隣で立ち止まれば、ずっと上空へ向けられていた瞳が此方を向く。どうしてか、この灰色の空すら美しく色付いていく気がした。 )
こんな所で何してんの?
▼ 虹を待ってたの
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