神技(シンギ) 2015-12-06 05:44:43 ID:e387a492e |
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結局、タクシーを捕まえる事が出来ずに歩きで帰ってきた秀人は、マンションのエントランスで意外な人物を見かけた
「異? 何してるんだお前?」
まさか自宅があるマンションで彼女と出会うとは予想していなかった秀人は間抜けな声を上げた
「雨宿りを」
短く簡素な答えに秀人は小さく吹き出す。
「……そうか……ククッ。お前でも雨に濡れるのは嫌なんだな……ははは」
異の人間味のある部分を始めてみた秀人は中々笑いを抑える事が出来ない
異は自身が笑われた事に気にした様子も見せずただ空を眺めている
「悪い悪い。俺の部屋も此処にあるんだ……雨宿りするなら部屋に来ないか? 重田の親父もいるぜ」
ひとしきり笑い、漸く落ち着きを取り戻した秀人は物は試しと部屋へ誘う。異は始めて秀人に顔を向けた
「ご迷惑で無ければ。お願いします」
立ち尽くしているのが嫌になったのか。異は秀人の誘いにあっさりと受け入れた。秀人はエレベーターへ向かいながら再び込み上げる笑いを堪えるのに必死になっていた
秀人に続き部屋に入って来た女性を狂骨は失礼にならない程度に観察した。彼女が静江らからたまに聞いていた異という賭博師であるとは目の前に座る重田の様子から察しがついた
「始めまして。僕は狂骨といいます。よろしくお願いします」
「異、と呼ばれています。始めまして」
無表情のまま軽く頭を下げる異を見た狂骨に妹の骨女の事を思い出した。表情に乏しい様が似ているのだ
ただ、骨女は慣れない人物には無表情に見えるというだけで狂骨達から見れば感情は人並みに豊かである
異も骨女と同じタイプなのか、本当に感情が希薄な無感動な人間なのか。狂骨には判断出来ない
少なくとも取っ付きにくい人物には違い無さそうだ。狂骨はそう結論つける
思考を巡らしている狂骨をよそにテーブルの上を眺めていた異が口を開いた。抑揚の無い声だった
「ゲームの途中で邪魔をしてしまったようですね」
テーブルの上にはトランプが散乱していた。3人は暇潰しにとババ抜きに興じていたのだ
「ただのレクリエーションよ」
素っ気なく稚怜が答える
「何か、似ている気がするなこの2人」
やり取りを聞いていた重田が狂骨に耳打ちする。狂骨も頷き肯定の意を示した
秀人と異を入れてババ抜きが再開された
重田が持ってきた寿司と秀人が購入したツマミ類を食べながら数回プレイして狂骨はある事に気がついた
それは
秀人は弱いという事だ
ジョーカーを引かされた時、表情に出してしまうのだ
重田と異は流石本職。狂骨は2人の表情や仕草からも何の情報も読み取る事が出来ない。稚怜も冷静な性格故かポーカーフェイスを貫いていた
この場では秀人が一番のカモであるのは疑う余地が無い
「だあ。またドベだ」
何回目かのドベになり秀人は財布から千円札を取り出し異へと渡した
博打打ちの性なのだろう。数回前から賭けが始まっていた。博打打ち3人の誰が先に上がるかで勝負をしている
3人の内、先に上がった者に最後に残った物が千円を払うという決めだ
秀人の提案で、一番負けているのも秀人だった
「あの、片山さん。そろそろ辞めた方がいいんじゃ」
「はあ、そうだな……」
がっくりと項垂れる秀人を宥めながら狂骨は確信した
この人は勝負事に向いていない……と
ポーカー、大富豪とゲームを重ねる中、重田と狂骨の携帯がほぼ同時に鳴り響いた
「やれやれ、静江からだ。どうやら助けが必要らしいな。狂骨は?」
「僕も似たような内容ですね」
苦笑を浮かべ、重田は立ち上がる
「って、わけだ。悪いな秀人。俺達は帰らなきゃなんねえ、傘借りてくぜ」
「片山さん、お世話になりました」
いそいそと荷物を纏め、玄関に向かう2人に秀人は声をかける
「待ってくださいよ。人手はあった方がいいかも知れない。俺も行きますよ。それに雨は強くなってます、タクシー呼びますから待っていてください」
喫茶店内はかなり荒れていた。大人も少女も大体が酒に酔い収集がつかない有り様だ
「あー、きょおにい! 何処に行ってたのさあ…こっちきてよお」
「…………う……ん…きょーにい…」
「……狂骨さん。お帰りなさいませ……比叉子寂しかったのですよ」
狂骨に手を振るがしゃ、気持ち良さそうに寝息を立てている骨女、何処となく妖艶な笑みを浮かべている比叉子
3人の頬は桃色に染まっていた。どうやら酒を飲んで酔っぱらってしまったらしい
同じく酔っぱらってはいるが、3人よりは酔いが浅い夜宵が狂骨に話しかける
「あ、狂骨君、お酒を勧めたら皆さん酔っぱらってしまって」
「飲ませたんですか! 貴女も皆も未成年者でしょう!」
至極正当な突っ込みを入れる狂骨だが夜宵は何処吹く風と受け流す
「あはは。お酒に興味があるようだったのでつい。いやあ、すいません」
とって付けたように詫びを口にし夜宵は楽しそうに笑った。狂骨は頭を抱え、深い溜め息をつく
「ほら、きょおにいっ! こっち来てってば!」
「そうですわ。積もる話もありますし」
がしゃ、比叉子が狂骨の腕を両脇から抱え自分達が座っていた場所へと引き摺り込む
「きょーにい…来たの?」
その騒ぎに骨女も目を覚まし狂骨に摺りよっていく
「わっ、ちょっと落ち着いて」
戸惑う狂骨を夜宵はケラケラと笑いながら眺めていた
「静江、かなり飲みやがったな?」
「たまにはいいじゃないかあ。楽しい宴会だったよ」
「それにしたってなあ」
ぐったりとテーブルに突っ伏す静江を睨み、重田はやれやれと肩を竦める
遼子、弥菜、昼中も静江と同じように酔い潰れてしまっているようだ
「こりゃ、どうしようもねえな」
「片付けましょうかね」
秀人がテーブルの上の皿やグラスを、転がっているゴミを拾い上げて袋に入れ始める
女性陣も寝かせた方が良いのかも知れないが、重田も秀人も酒に酔って服装が乱れている彼女達を世話するのは躊躇いがあった
「稚怜も異と狂骨は彼女達を頼む、片付け俺達でがやておくよ」
「わかりました」
「仕方ないわね」
「はい……わかりました」
狂骨が何か言いたそうだったが
「きょおにいと一緒じゃなきゃ」
「いや……」
と、自分に甘えてくる妹達を放っては置く事は出来なかったのだ
「さあ、2階に行きますよ」
「うーん、もっと飲むう、離してえ……」
「まだまだ、夜はこれからなんだけどねえ」
「お姉さんはあ、全然酔ってなんかいないわよお」
「ねえねえ……アタシと付き合ってよお」
「何だか……回りがぐるぐると……目が回りますわ……」
「あふ……私も眠くなってきましたねえ」
「時間がかかりそうね」
「そうですね」
稚怜の予想通り、彼女達を寝かせ店内の掃除を終えるには2時間近くかかった。外は暗く、雨足も強くなっている
「今日は泊まっていけよ。リビングで雑魚寝になるが」
「まあ、仕方ないっすね……狂骨は?」
「妹に挟まれて眠っているわ」
「そうか……難儀な奴だな。稚怜、異。風呂にでも入れよ。疲れたろ……って異は?」
異は忽然と消えていた。何時出ていったのか秀人は記憶していなかった
「借りるわ」
風呂に向かう稚怜を尻目に秀人は辺りを見渡す。腑に落ちなかった
異がマンションで雨宿りしていた時より雨は激しくなっている。何より真夜中だ。外に出るのは躊躇われるのではないか
そう考えたとき秀人の脳内に嫌な考えが過った
異は自分を待っていたのでは無いか
重田が事務所に来ること、秀人が賭けを提案する事を異は勘のような物で察したのかも知れない
「俺は奴にカモにされた、……のか?」
呆然と呟く秀人の肩を重田は慰めるように叩いた
無駄に長い&キャラ崩壊、すいませんでした
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