神技(シンギ) 2015-12-06 05:44:43 ID:e387a492e |
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三々五々。
人が疎らになりだし町全体も閑散とした風景を作り出す。
中心街より少し離れるとビルディングや集合住宅は数を減らし、それに呼応するかのように季節飾る山や無作法に放置された植物が点々と現れる。
赤々とした夕陽が照り、アスファルトの大地をゆっくりと熱する。
「あまり此方の方に来なかったから分からなかったけど駅一つ越えるだけで大分、町の雰囲気も変わるな。」
「いやー、ホントそれ。パないわぁー、流石にここまで変わるとアイデンティティークライシスでしょう!」
学生服を着た男子高校生が二人。
月島望(つきしまのぞむ)。片方は少し伸ばした黒髪に整った顔立ち。引き締まった筋肉質な身体に柔和な雰囲気。
引篠健(ひきしのたける)丹念に染め上げた金髪・両耳に2つずつ開けたピアス。此方も鍛え上げた筋肉質な肉体。
お互い同学年でサッカー部の二人、望が部の中心として動き健はその隣で助力という形をとっている。
夕刻ともなり本日の部としての活動を終えた二人は帰路の道すがら、
「そういやさ、この町ってアレっしょ?ネットとかで有名なスピスポがあるじゃん?ちょっち、帰りに寄ってみません、望パイセン。」
という健の一言によって偏屈な神社を目指している。
「でもこの前のはマジバビったわー。日向光華チャンだっけ?ヤマナデ感溢れる娘だったわー。ぶっちゃけ望君も惚れてんじゃね?」
「いや。それは無いかな。スゴく魅力的な娘だとは思うけど恋愛対象にはなりにくいな。」
「っべー、望君マジ漢だわ。そうそうハーティングは掴ませないって懐深すぎでしょ。日本海溝の域越えてね?」
そんな他愛もないとりとめもない会話を続けていると眼前、路の外れより影が差し掛かった。
現れたのは自分達と変わらないくらいの歳の女性。
黒い髪を腰辺りまで伸ばし、少しはだけるように羽織った花魁衣装。町中であれば奇異の視線を集め、ともすれば職務質問されかねない姿だ。
確かに目を引く様な装いをしているがそれ以上に何故か望は視線を離すことができない。
金縛り、とも違う不思議な感覚。
形容しがたい不可解なもの。あえて例えるならそれは別の世界のモノを見つめるような。
「っ君。望君!?」
隣から肩を揺さぶられ大声を出され我にかえる望。
少し心配そうな面持ちで自分を見つめる健を傍目にもう一度花魁少女を見ると、彼女は怪訝そうな表情で此方を一瞥すると元来た道を戻っていった。
「どしたしガチ目リアルに病み入ったと思ったわ。」
「わ、悪い。さっきの娘、何かこの辺りじゃ見かけない格好だなと思ったから。」
「まあ確かに?この辺にはレイヤー少なthingだし、あの娘もかなり可愛い感じだっけーどさ。」
「(アレはコスプレの類いなのか?趣味にしては気合いが入り過ぎてるというか…。それにあの娘の脚、一瞬だけど人骨みたいに白く…。)」
「てかアレっしょ?ぶっちゃけ、光華ちゃんに続いてヤマナデ2連チャンでリーチ掛かってると思ってんしょ?分かるわー、俺も結構暖まってきてんよねー。」
「部活内から犯罪者が出るのはゴメンだからな。そこんとこは自重して妄想で保管しとけよ。」
「っべー。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
謎の花魁少女とも離れ、望と健はすっかり陽も落ち暗くなった道を歩き神社前へと辿り着いた。
石で作られた階段は所々磨耗しており手入れが行き届いていない。
落ち葉やゴミなどは無いものの信仰対象を奉るには些か古びすぎていて、業者の入りもあまり無いことが伺える。
鳥居は辛うじて原形を保っているも何時倒壊してもおかしくないレベルで腐蝕している。
極めつけは神社本堂。
完全に瓦解・焼失しており、お世辞にもその意味を成していない。(神棚や賽銭箱はあるものの栄えてはいない。)
「マ?スピスポってか心霊でしょこれ。ガセネタってやつッスかぁ~…。ショウミ、これじゃお話にならないでしょう。」
急勾配の石階段を登りきり鳥居をくぐり抜けるも不平不満を漏らす健。
折角、町外れまで来たもののこのような有り様であれば誰でもそうなるだろう。
「いや、一応寂れてはいても神社ではあるしスピリチュアルスポットであることに間違いは無いんじゃないの?」
「心霊つか怨霊のクラブでしょ。パリピもイかしたチャンネーもいないならクラブですら無い感じはあるよねー。つか、ここオヤクションのお仕事でしょ?マジ萎え、論者ガタ堕ち。」
「辛気臭くて悪かったの。資金が集まり次第建て替えする所存なのじゃ。」
「お世辞にも資金とは言ってもこの調子じゃ難しくないですか?素人目の僕でも分かるくらいには酷い有り様………え?」
休憩がてら石階段に腰掛けハズレだハズレだと愚痴りながら話していると不意に後ろから会話に参加する声が聞こえた。
声の元は境内よりずっと内側から発せられ、狛犬が喋っていた。
否、阿形の台座より発声を行っていたのは少女だった。
長く伸ばした白髪にシワ一つ無い和装。頭部よりフサフサとした犬科に生えているような耳が伸び、臀部より時折ピョコッと動く尻尾が生えている。
「コラコラ、そんな所に座ってちゃ駄目だよ。所有地みたいだし怒られちゃうよ?罰当たりだし。」
望は本堂近くまで歩み寄っていくと台座に座る少女に向かい、諭すように話しかける。
出来るだけ柔和な表情を心がけ、笑顔も交えながら諭すように。
「ハー…またこのやりとりかの。良いか青年?鎮音はここの仮の神主なんじゃ。それに罰当たりというならそち達もこの地を愚弄するだけ愚弄して賽銭すら入れておらぬではないか。」
「ウッ…。確かに…。」
諭すつもりが逆に諭されてしまい、挙げ句の果てには便宜上の常識まで説かれてしまった。
「(ここは敬意と謝恩の意味も含めてある程度は入金…奉納した方がいいだろう。)」
鞄より財布を取り出すとその内より千円札を3枚取り出す。
金額でどうこうなるとは思えないがここは気持ちということで奉納し、礼儀を学ぼう。
望は折り畳んだ紙幣を賽銭箱に入れると『仮神主』と『犬耳コスプレ』という腑に落ちないものを感じながら少女に軽く頭を下げ、石階段の方へと戻っていく。
注意しにいく筈が謝罪してお賽銭を入れ戻って来てしまった。
心には敗北感にも似た感情が燻り、何とも不完全燃焼な形となった。
石階段に戻る途中、後ろを振り返ると賽銭箱より千円札を3枚取りだし小躍りするように跳ねる少女が目に映り少し気が晴れた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
こうして望と健の不完全神社巡りは幕を閉じた。
望としてはかなり不満が募っているのだろうなと思っていたが、
「ヤマナデ女子3連とかこれはもう確変入ったも当然でしょ!やっぱ失敗しても成功者の夢は諦め切れないでしょ!!!」
と本人は完全に別の熱が入っていた。
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